第64話 大晦日
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
第64話 大晦日
年末が近づくにつれて、私の住んでいる地域は人が少なくなった。この辺り出身の人たちと言っても、郊外からこの辺りに集まっていて、今は実家に戻っているようだ。年末のセールを見ながら、適当に自転車を流して当てもなく彷徨った。こうした区切りの空気は好きだ。勉強が進んでいないから現実逃避しているだけかもしれないが、こういうときくらい息抜きも要るだろう。
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大晦日の日、朝から大掃除をした。暇が増えて掃除を息抜きにしているから余り汚れてはいなかったが、それでも普段手を伸ばさない場所はあるものだった。特に洗濯機や冷蔵庫の裏は汚れがたまっていた。護符も新しい物を貰ったので貼り換えた。硬貨虫の作った?コインがそこそこ溜まっていた。捨てるのも何だか惜しく、封筒に入れて棚にしまった。
掃除は昼過ぎに終わった。わけもなく外をふらついていると何だか怪奇が普段よりも多い気がした。特にあまり見ない怪奇が溢れていたような気がする。大掃除の時一緒に掃き出されたのだろうか。ゴミ捨て場のゴミ袋に怪奇が混ざっていることがあるが、それと同じノリだろうか。他人の家にはこういうのがいるのか。つくづく護符があってよかったと思う。
それから、粗大ごみの一部が怪奇になっていたのを見つけた。いわゆる付喪神というモノだ。正確にはなりかけていたというべきだろう。箪笥に何も変化はなかったが、私の眼で見るとその内側で何か蠢いているのが分かった。どうしたものか迷ったので藍風さんに聞いてみた。
『忙しい所すみません、粗大ごみが怪奇になっています。これ、どうしたらよいでしょうか』
大晦日だから返事はすぐ返ってこないだろう。一旦その場を離れようとしたが、すぐにスマホが振動した。
『たまにあることです。大したことなさそうなら、札を貼っておけばよいですし、放っておいても大丈夫です』
『上野さんは怪奇の強さがよくわからないんでしたよね。そこに行きますので場所を教えてください』
わざわざありがたい。
「ありがとうございます。駅近くのコンビニの隣のマンションの下です」
「なら家の近くですからすぐに行きます」
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コンビニで待っていると藍風さんは言った通り十数分で現れた。臙脂色のコートにワインレッドの手袋、下はスニーカーにタイツを履いていた。寒い中来てもらったのだからと、ホットの緑茶を買って渡した。ゴミ捨て場に案内すると、やはり大したことのないモノだったようで、念のため札を貼って終わった。
「上野さん、この後予定はありますか」
「実は特にないんですよ」
「だったらどこか、少し見ていきませんか」
大きい目がこちらをじいっと見つめている。家の近くなら見飽きてそうなものだが、年末だから品ぞろえも変わるのだろう。
「そうですね。折角ですからどこか行きますか」
私と藍風さんは寒かったのもあって、とりあえず見つけた雑貨屋に入った。女の子が好きそうな小物や、実用性のある台所用具、小さめの家具もあった。そのいくつかはゴミ捨て場で見たような変化をしていた。藍風さんはこれは弱いです、これはさっきよりも少し強いです、と耳元で囁く様にして教えてくれたが、やはり違いは分からなかった。店員にはひそひそ話をする不思議な子に見えていたかもしれない。そんなにいなかったから見られてなかったかもしれない。だったら普通に話しても聞こえていなかったと思うが、店の人に何か配慮したのだろう。二人とも何も買わないのは気まずかったので、私は買い物袋を買った。最近破れそうになってきたからだ。
予想以上に雑貨屋で時間を潰した私達は家に帰った。藍風さんを家まで送ったが、家の中に人の気配はないようだった。
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夕食をインターネット上の年末特番を見ながら食べて、ゆっくりと風呂に浸かった。年が明けるのを何か意味があるわけでもないが待ちながらネットサーフィンをしていた。藍風さんと会ってから本当に色々とあった。これからもこんな日々が続きますように、とそばをすすりながら思った。