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第63話 雪国からの帰還

第63話 雪国からの帰還


 その後石に札を貼り、車に乗って残ったカメラを回収した。天気は段々回復していた。丁度お昼ごろになり、折角だから貰った昼食を空き地で食べることにした。藍風さんと桾崎さんが話しているのを聞きながらひとまず怪奇を対応し終わったことに安堵していた。


 「藍風さん、あれが噂の能力ですね!どういう封印の仕方なんですか?」


 「うーん…。実は自分でもわかりません。ただ、あの石に封印されていることは確かです」


 「不思議です。凄いんですね!私もできるようになると思いますか?」

 桾崎さんは、多分まだ純粋だから藍風さんを褒めることができるのだろう。後は恐らく才能があるから(弦間さんと嶽さんから師事を受けているし)、他人を称賛できるのだと思う。


 「それは分かりませんが、他に同じことができる人は会ったことはありません。それに何でもできるわけではないですよ」


 「誰もできないならもっとすごいです!」


 「そんなに…、ありがとうございます」

 藍風さんは、前から思っていたが、誰に対しても丁寧語以上だ。



 一段落した後旅館に戻った。もう予約をしてあったからだ。飛行機の手配をしようとしたが、天候不良で飛ばない可能性が高いと女将から教えてもらった。仕方ないから新幹線で一度首都まで出て、そこから行くことにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 カメラのデータをPCに移して、荷物をまとめて、それから風呂に入った。ここ最近はビデオを高速で回してみたり、慣れない雪道を運転してばかりで疲れていたようだ。思わず眠りそうになった。


 夕食まで、何をするわけでもなく窓の近くの椅子に座って、外を眺めていた。空を泳ぐ魚のような怪奇が風に流されていくのが見えた。枯れた木々に雪が積もり、どこかの家から湯気が立っていた。遠くに見える山道をたまに車が通り、すぐにまた景色が静かになった。のんびりとしていた。それだけでこの先残れるとは思わないが、こういうところは貴重だと思う。



 夕飯は女将が気を利かせて少しだけ豪華なものにしてくれたようだ。この味が最後になると思うと少しだけ寂しさを感じた。雪が、こういう気持ちにさせるのだと思う。日本酒を熱燗にして、ちびちびと飲みながらローカル局のTVを見ているとノックがあった。


 「どうぞ」


 「こんばんは、少し大丈夫ですか?」

 桾崎さんだ。


 「いいですよ、どうしましたか」


 「あの、今回の私の仕事はどうでしたか?実は初めて師事を受ける人とは別で仕事をしたんです」

 緊張した様子で、桾崎さんはこちらをチラチラと見ている。


 「とても助かりました。桾崎さんがいなかったら危なかったと思います」


 「あ、ありがとうございます!」



 桾崎さんが戻った後に弦間さんから連絡があって、同じことを聞かれた。同じように答えたが、どうやら試験も兼ねていたらしかった。また桾崎さんが来ることもある、というか半分私達と一緒に行動させるつもりのようだった。問題の取り分は後日話すということだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌朝、天気は良かった。朝食の魚はここにきて新しい物が出た。女将に挨拶をして、宿代を少し多めに払って出た。チップ分も協会に請求できるだろうか。後で確認しよう。荷物をまとめてレンタカーで七山町の中央に向かい、そこから電車でN市に向かった。そこから新幹線で首都まで行きながら昼食をとった。桾崎さんと藍風さん、その後ろに私が座っていたが、2人は何を話すこともなく、桾崎さんは窓の外を見ていて、藍風さんは本を読んでいた。


 首都から空港までまた電車で行った。道中、キラキラとした犬くらいの大きさの鼠が数匹、雑居ビルとビルの間に隠れていた。藍風さんも桾崎さんもキョロキョロとしていたのが可愛らしかった。


 「あ、ほら、タワーですよ!向こうは門があります!」


 「ビルが高いですね」


 しかし、飛行機は何かの不調で予定通りに飛ばず、G県の空港に着いたのはすっかり夜遅くなっていた。怪奇で空を飛んだりワープしたりするものがあれば便利なのにと待っている間中ずっと思っていた。こういう時間は苦手だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 うとうとしている桾崎さんに住所を聞いてみると大分遠くだった。急いで電車に乗っても間に合うか、間に合わないかと行ったところだった。


 「桾崎さん、どこかのホテルに泊まりますか。お金ありますか」


 「はい…。そうします…」

 寝ぼけているようだ。


 「もしあれなら私の家に来る、のもまずいですよね。もう少しだけ起きていてくださいね」


 「はい…」

 桾崎さんがうなずいた。藍風さんが何か期待を寄せるような目でこちらを見ているような気がした。



 ホテルに桾崎さんを送り届けて、それから文松町まで帰った。藍風さんは途中で寝ていた。藍風さんを家の前で下ろして、自宅に戻ったころにはもう日が変わっていた。荷解きをする気も起きず、そのままの格好で布団に入った。旅館の物よりも冷たかった。

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