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第62話 猿馬(後編)

第62話 猿馬(後編)


 ビデオを高速で流していると、しばらくして画面内に雪が降り始め。影があらわになった。前回モニタに形が見えたものよりもやや小ぶりだった。映ったカメラを仕掛けた場所は同じだった。


 「大きさからして、猿馬でしょうか」

 背景からするにそのくらいだろう。


 「そうだと思います。これで依頼の怪奇と猿馬が同じ地点に出没することがわかりました」

 つまり、縄張りを持たないのか、互いに不干渉なのか。いや…


 「待ってください。依頼の怪奇は恐らく縄張りがあります。人をその中では襲って、そこから出て近くの集落を積極的に襲ってはいないからです。内臓と右手の爪はついでに食べているか、何なのかわかりませんが」


 「それとこの映像はどうつながるんですか?」

 桾崎さんが何とか理解しようと質問をしてくる。


 「つまりですね、依頼の怪奇の縄張りに猿馬が入っているということです。それは、多分、猿馬は性質も性的二形です」


 「性的二形、ですか?」

 小学生には難しい言葉だったか。


 「オスとメスの形が異なっているということです。極端なのは蚤やチョウチンアンコウです」


 「今まで見ていた猿馬はメスでこちら側には不干渉、依頼の怪奇はオスで、こちら側に干渉する性質があるということでしょうか」

 藍風さんは話を理解できたようだ。


 「うーん、それは依頼の怪奇も猿馬ということですよね?」


 「そうです。桾崎さんは頭がいいですね。予想ですけれども」


 「はい、ありがとうございます!」


 あくまでも予想ではあるが、それを前提に話を進めることにした。残りの映像には何も映っておらず、私と桾崎さんはそれぞれ自分の部屋に戻った。桾崎さんは眠たそうだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌朝、強めの風と雪が窓ガラスに当たっていた。悪天候だった。朝食を食べに部屋を出ると2人と出会った。朝食はいつも通り美味しかった。天候が回復するまで待機することも考えたが、女将に聞いたら一層悪化することも良くあるということだったので、カメラの交換だけでもしておくことにした。


 車に乗ってからも視界は悪かった。対向車が殆どないことが救いだった。速度を落としてハイビームにしてハザードを点けても怖い物があった。


 橋の近くのカメラを交換するまでは何とかなった。しかし吹雪が激しくなり、運転するのが困難となった。仕方なく近くの空き地に車を停めてハザードをつけた。数十分後のことだった。


 「何か気配がします」

 桾崎さんが急に窓の外を眼を細めて見つめている。私も慌ててそちらを見るが、雪のせいで視界が確保できない。藍風さんも同じようだ。

 「外に出て確かめます!」


 「待ってください。飛ばされかねません」

 桾崎さんの腕をつかんで止める。

 「もう少し様子を見ましょう」



 しばらく車の中で待機していた。気配は吹雪が治まるのとあわせるようにして弱まっているらしい。桾崎さんが報告してくれている。


 「気配が消えたら、姿も消えると思いますか」


 「そうだと思います」

 桾崎さんが窓から眼をそらさずに答える。

 「もう行ってもいいですか?」


 「私もそう思います」

 藍風さんも同意見のようだ。


 専門家達がそういうならそうだろう。風も弱まってきている。

 「それでは、行きますか」


 外に出ると風が冷たい。私と藍風さんは後方を位置取って桾崎さんの後を追う。その桾崎さんは金剛杖を構えて進んでいる。能力を発揮するのに服装が大事なのだろう、寒そうだ。


 唐突に桾崎さんが歩みを止めると、風が止み、私にも依頼の怪奇、猿馬のオスの姿が見えた。大きい。見た目はメスと同じだ。しかし表情が明らかに敵意剥き出しだ。今いるところは縄張りの手前のようだ。


 「どうします?叩きますか?」

 桾崎さんは杖を一層強く握りしめている。今にもとびかかっていきそうだ。


 「待ってください。対処方法がわかりました。あの川の中の水と、苔、あの大きい石、それから鍋とボールが要ります」


 「例の能力ですか!」


 「それなら、藍風さんは車から鍋とボールを持ってきてください。私と桾崎さんは川原に降りて、桾崎さんが猿馬の相手をしている間に、私が残りを取ってきます」


 すぐに藍風さんは引き返し車に向かった。桾崎さんは土手を滑り降りて猿馬にとびかかっている。私も急いで川原に向かう。


 (冷たい!)

 川の水は氷よりも冷たく感じる。苔と水をペットボトルに詰める。後ろから何かぶつかり合う音が聞こえる。何故か背中を任せるのには抵抗がない。弦間さんや嶽さんの弟子と知っているからだろうか。


 水と苔は十分採れた。次は石だ。重い。手が凍りそうだ。川底もぬめついていて滑りそうだ。靴の中にも水が入ってくる。


 川を上がると、桾崎さんが杖で猿馬を押しとどめていた。物理的な力では到底かなわなそうなのに拮抗している。早く戻らないと。急いで土手を上っていく。


 「桾崎さん、戻ってください!」

 私が戻ったのを見た藍風さんが良く通る声で伝えた。


 「はい!」

 とどめとばかりに杖で押し飛ばすと桾崎さんは土手を駆け上がって来た。猿馬は縄張りから出た私達を威嚇しているが、向かってはこない。



 「それでは、やります」

 藍風さんがボールを川原に投げる。それにつられるようにメスと子供が現れる。続いて鍋に川の水と苔を入れて、最後に石を漬けた。


 一瞬、猿馬の顔が歪んだように見え、その姿は消えてしまった。


 

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