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第58話 雪中の人喰い(中編)

第58話 雪中の人喰い(中編)


 朝起きると、夜中のうちに降っていた大雪が積もっていた。車を動かせなくなるのではないかと訝しんだが、除雪車が来てあっという間に雪を空き地に集めてしまった。朝食を藍風さんと食べた。朝食の魚は前日と違うものが出ていた。素晴らしい。


 宿周りは早いうちに従業員が除雪したようで、雪があまり残っていなかった。駐車場までの道に少しだけ残った雪が早くも固まっていた。藍風さんは、雪に慣れていないのだろう、転びそうになった。とっさに手を掴んだら私も転びそうになった。手は冷たかったが、きめの細かい柔らかく細い指がこちらを頼るようにくっついてきた。


 それから、カメラを確認しに行く前に町に出て昼食を買った。おにぎりや水、インスタントみそ汁に、おかず、鍋、水筒、食器、カセットコンロと随分と色々購入した。そのおかげで年末の福引券を1枚貰った。これがなんと引いたら当たりだった。服との引換券だった。


 (特にほしいものはない。どうしようか)

 ふと引換券の裏を見る。服以外にも色々と交換できるようだ。


 「藍風さん、手袋要りませんか」

 普段つけているのを見たことがない。今は持ってきていないのか忘れていたのか分からないが、雪国では辛いだろう。


 「え、いいんですか。ありがとうございます」

 口元が緩んでいるのがはっきりとわかる。頬は興奮で赤くなっている。喜んでもらえて何よりだ。ワインレッド色のスエードの手袋を選んだ。藍風さんはスパイク付きの靴を買っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 買い物を終えてから前日にカメラを仕掛けたポイントに確認に行った。山道の雪は塩化カルシウムを撒いて溶かしてあった。カメラは木の下に置いたおかげで雪は積もっていなかった。録画は順調にできていた。しかし、私にも藍風さんにも直接何も見つけることはできなかった。山中の3か所と橋に仕掛けた分を見終わった後に雪の積まれていない空き地で昼食を食べた。キャンプみたいで楽しいが、こんなところでしていていいのかと少しだけ思った。まあ、誰もいないところだから気にしすぎだろう。


 一服してから残りの2か所を確認した。日が傾いて暗くなりかけたときに、最後の1か所で初めて見る怪奇を発見した。川原にいて、大きい猿のような姿だが頭はどちらかと言うと馬のようだった。姿通り、獣臭かった。


 「藍風さん、あの大きな木の間、見えますか」

 指を指したことに気づかれても良くないだろうから、口頭で説明する。距離はあるが何が起こるかわからない。


 「あの木ですか、うーん…。私には分からないです」

 藍風さんにも見えないときがある。


 「そうですか。なら、下の方を見てください。足跡か、雪が枝から落ちるのが…わからないですね…」

 それはこちらには干渉していないようだ。川下に向かってゆっくりと歩いている。

 「あれが原因でしょうか」


 「うーん、それは分かりません。でもこちら側に触れないなら、依頼の怪奇とは関係ないのかもしれません。道沿いに追いかけてみませんか」

 川に降りれば襲われるかもしれない。手がかり位になることを期待して車を動かす。カメラの交換も同時に行っていこう。


 私は運転に集中しないとならないから、助手席の藍風さんに川の様子を見てもらった。藍風さんにはそれは見えていなかったが、何かあるかもしれないから念のためだった。途中途中車を停めてそれの様子を見ていたが、ただ川下にゆっくり歩いているように見えた。橋の下をそれが通った辺りで姿が私にも見えなくなった。ということはこちら側からいなくなったのだと思う。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 旅館に戻ってから風呂に入り、それから夕食を私の部屋でとった。クリスマスイブだったので食後にショートケーキが出てきた。酒は赤ワインだった。連日こんなに良い物を食べても良いのか心配になる。協会はどういうような話をつけたのだろうか。食事はおいしいし、サービスも、周囲の雰囲気も悪くない。それなのに繁盛していないのは、立地と、周りに何もないからだろう。だから、いきなり何泊もしてもそんなに問題にならないのだろう。


 旅館の女将も人当たりがよく、雑談をしていたら昼食のおかずとご飯を準備してくれることになった。お礼に宿泊代にチップを乗せておいた。


 藍風さんの部屋でビデオを10倍速で確認したが特に何も映っていなかった。雪のせいであまりきれいに見えていないときもあったし、1度だけ何か映ったと思い等倍速で見たら狸の番が前を横切っていった。モニターが同時に見える場所は限られているから藍風さんと近づくことになり、隣から風呂上がりのシャンプーと混ざった香りがしていた。またモニターを6台同時に見続けるのは地味に疲れるものであった。正直要らないような気がするけれども、やれることはやっておこうと思う。



 部屋に戻ってくつろいでいると藍風さんが来た。次にする依頼を決めたようで、その連絡を直接しに来た、ということだった。少し呼吸が荒く、すぐに藍風さんは自室に戻っていった。大抵冷静な割には珍しかった。その後、私は窓の外に降る雪を眺めながら今後のことを考えた。そのうち眠くなってきたので電気を消して布団に入った。




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