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第56話 ホーンティング(後編)

第56話 ホーンティング(後編)


 チャイムの音が鳴った後、すぐにスピーカー越しに女性の声が聞こえた。機械を通した無機質さの中にも疲労がわかるような声だった。


 「はい、どちらさまですか」


 「はい、ええと、怪しいものではありません。こちらの家で起きている現象について心当たりがございまして、少し調べさせていただけないかと思い、こうして伺った次第です」

 できるだけ温和な声に聴こえるようにする。怪しいものは自分をそう言わないしむしろ怪しくないと言うから、却って怪しいのに怪しくないのだからそう言うしかない。私ならこんなのが来ても入れようとは思わない。なぜなら、その人が仕掛けたのかもしれないからだ。そうやった家に上がって何か盗むかもしれない。そもそも危険な団体の一員の可能性もある。


 「…少々お待ちください」

 しかし女性は信用してしまったようだった。緊張して身構えていたのに。よほど被害を受けているのだろうか。ツァップさんにOKと伝えて少し待つと玄関が開いた。


 「あの、一体どちら様でしょうか、それからどうしてあの事を知っているのですか」

 やつれた様子の30代後半くらいの女性が顔を出した。


 「はい、私達はお宅で起こっているような怪奇現象を調べているものです。私は上野、こちらはツァップです。日本語は話せませんが怪奇現象に気づいたのは彼女です。ご自宅の前を通った時に気配がしたと言っています」

 できるだけ、にこやかに、警戒心を与えないように。緊張する。


 「はあ。それは助かりますが、まあ、何分急な話ですので…」

 ごもっともだ。


 「おっしゃる通りです、ただ、本日を過ぎますと別件でしばらくこの辺りにはおりませんので、もし、現象が気になっているようでしたら、ぜひいかがでしょうか?」

 半分は本当だ。私はいない。ツァップさんはいるが。詐欺師の気分だ。ツァップさんはニコニコしている。


 「でも、そんなに余裕はありませんし…」

 交渉か。ツァップさんに英語で聞いて女性に答える。結構安値だ。


 「今言った通りでありますから、もし、ご用がなければ今日はこれで」

 そう言ってツァップさんの手を引き帰るふりをする。


 「待ってください!あの、主人に聞いてみますので上がってお待ちください」



 応接間に通された私達は出されたお茶を飲みながら女性の電話が終わるのを待った。子供たちはどこかに出かけているようだ。


 感覚が良くなってから、視線の誘導、発汗、心臓の鼓動と色々なものがこうした時に役に立つと気づいた。普段は使わないけれどもこの時は、まあ、使ってみた。


 「主人はぜひお願いしたいということでした。よろしくお願いします…」

 上手く行った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 私達はまず家を見学した。私には何も見聞きできなかったが、ツァップさんには気配や痕跡がわかるらしく、あっという間に原因となっている子供部屋を特定した。女性、小野さんはそのことに驚いていたが、わずかに残っていた疑いも晴れたようだった。それから、小野さんからヒアリングをした。


 話によると、一カ月ほど前から娘の部屋で家鳴がしはじめたという。もともと聞こえることは偶にあったが、ほとんど毎日聞こえるようになって、それも娘の部屋からだけで聞こえるようになって気味が悪くなったそうだ。それと同時期に何かの気配と足音のような音が聞こえるようになり、心なしか部屋の温度が寒く感じることもあった。ずっと気のせいだと思いこもうとしてごまかしていた。娘は怖がって部屋に入らず、今は姉と一緒の部屋を使っているという。



 「やっぱりこれは紛れもなくホーンティングです」

 話を聞き終えた(通訳済み)ツァップさんが言った。


 「ツァップさん、これからどうしますか」


 「早速、とりかかりましょう。どこか着替えられるところがあるか聞いてもらえますか」

 そのままそっくり小野さんに伝える。だったらということで娘(姉)の部屋を使わせてくれることになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ツァップさんはこの間の修道服に着替えると娘の部屋に入っていった。私はスペースの都合上と何かあった時のためにと小野さんと扉の前で待っていた。少しして、部屋からは唄のような調べと足音が聞こえてきた。それに反応するようにラップ音と扉をノックする音が聞こえた。小野さんはその音で立ちくらみを起こしていた。私は何か出てきたときのために預かっていた聖水と札を構えた。しばらくするとツァップさんが出てきて、終わったと告げた。見立て通りだったようだった。


 小野さんに謝礼を協会を通して振り込んでもらうようにして(税金関係がよく分からないからまとめておいた方が楽だろう)、ツァップさんが着替え終わるのを待った。小野さんは参っていたらしく、ほっとした顔でお礼を言われた。ただ、この人たちは無条件に信用しすぎな気もした。


 タクシーに乗って再びホテルに戻っている最中、ツァップさんは嬉しそうだった。

娘さんの部屋でプ○キュアのグッズを見つけたらしく、こんなものにもプ○キュアがと喜んでいた。修道服を着ていた時とのギャップで一気に子供っぽく見えた。多分今度買い集めそうだと思った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 自宅に戻って、夕食を食べてふとスマホを見るとツァップさんから連絡があった。さっそく文房具店でキャラものの文具を買ったらしい。アニメを見て日本語の勉強もしているらしいし、楽しそうで何よりだ。

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