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第6話 添九島(前編)

第6話 添九島(前編)


 最近は集中の程度を調節することである程度チューニングすることができるようになりつつある。といっても車を運転するときには伊達眼鏡が未だにいる。協会からの報酬は予想以上に多く、驚いた。こういう能力は誰しも持っているのものでもないし、ある意味幸運だったのだが、能力や結果が報酬に反映されることは達成感がある。なのでこの能力のトレーニングを自発的に行う気分になる。しかしながら、怪奇に接することは命の危険を伴うということを忘れてはならない、と思う。事実、護符は欠かせないし、それを持っていたところですべて防げるわけではない。


 職場では相変わらずである。もう誰も修正できないだろう。いっそ何か盗まれたり手を出された方がよっぽどましかもしれない。そうすれば大手を振って対抗できるとさえ思う。なるべく無、であろうとしていたが、世話になった上司の送別会の連絡が直前まで来なかったのは中々こたえた。こういう不義理なことをさせられるのはさすがにつらい。すでに予定があると言って断ったが、だから連絡しなかったと奴は手柄のように吹聴していた。送別会の連絡が他にあったのと、予定を決めたのの時系列は逆だが、そういうのをごまかしてわめく。考えてもあれだし忘れよう。有休と土日祝日を利用してみーさんと添九島に行くのだから。



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 添九島はL県にある人口500人程度の小さな島で、隣の九宝島から船で五分程度の位置にある。九宝島は本土からのアクセスも良く観光地として有名であるが、その隣の添九島は閉鎖的で未だに村として独立しており、L県の人でさえ知らないことがあるほどである。島民同士の交流もあまりない。そんな添九島に行くことになったのは新しく就任した村長が島のあるならわしについて協会に相談したためである。これをみーさんが受けて、補助として私が適切であるということで指名したと言っていた。


 みーさんとはL県で落ち合って一緒に九宝島へ行き、そこから添九島まで地元の人に乗せてもらった。みーさんは普段着とも、ジャージとも取れるようなラフな服装にウインドブレーカーを着ていた。対する私はワイシャツとパンツにジャケットで変な連れと思われたかもしれない。自分も似た格好をすればよかったのか、みーさんがまともな格好をするべきだったのか。世代柄話が合うので道中は気まずくなることもなく、それぞれ景色や食事を楽しんだり、適当な話をしたりした。朝早く自宅を出て、添九島に着いた頃には夕方になっていた。



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 島に着くと村長が迎えてくれた。がたいが良く30代後半くらいだろうか。島には民宿がないため、村長宅の離れを借りることになっていた。家に向かう前に彼は車で島を一周し簡単な案内をしてくれた。私達は島の環境調査に来たという名目で来ているので、他の島民から見てもさほど不自然ではないことになっていると村長は言っていた。


 「すみませんね、こんなところまでわざわざ。何もありませんがせめて景色でも楽しんでください」


 「ありがとうございます」


 「九宝草は隣の九宝島にも負けないくらい綺麗に咲くんですけどね。年寄りは何もしたくないんですよ。九宝草なんて名前がついているからL県民もうちで咲くとも知らないのでしょうし」


 島は15分ほどで回ることができた。唯一の商店、郵便局、民家と学校、役場、それから倉庫と船、やや山間にある神社。あとは殆ど自然だけだった。島の大半は火山帯で道も舗装されておらず、人も住んでいないということだ。彼は代々村長をしている家系であるというが、保守的な印象を受けず、島を発展させたいと考えているようだった。珍しいと思った。



 村長宅に着いてから離れに案内された。村長の嫁と子供は挨拶に来てくれたが、母親は顔さえ見せなかった。それぞれの部屋で荷を整理して一段落ついたころに夕食が運ばれてきた。五目ご飯に味噌汁、魚の煮物に、肉じゃが、それから日本酒と自家製のするめだった。


 「上野さん、それじゃあ確認してもらえるー」

 そう、私が連れてこられたのは毒見役のためだった。といっても、本当の毒見ではなく、集中してにおいや味を感じることで、毒が盛られていないかの確認だ。閉鎖的な空間では保守的な集団が霊能力者に毒を盛ったり、襲ったりしてくることがある。何も変えたくないからと言ってラジカルすぎると思う。私は集中してそれぞれの料理を確認したが特に何もなかった。好意で用意してくれたようだった。疑ったことを悪いと少し思ったが、料理は家庭的な味でおいしかった。特に肴は酒に合った。


 『盗聴機や人の気配はない?』

 食事中、みーさんがスマホの画面を見せてきた。こちらも集中してみたがそれらしい音はしていなかった。私は片手で○のサインを送った。


 「あーよかったー。たまにやばい人たちがいるんだよねー」

 みーさんは日本酒をあおりながらするめをかじっている。似合う。


 「万が一があっても島から出るのが大変ですよね」


 「そうです。だからこそ警戒しているんですねー。それじゃあ、明日は島を散策することにして今日早めに寝ましょうかー」

 そういいながらも日本酒が止まっていない。


 私達はしばらく酒とするめを楽しんで、普段よりも早く寝た。朝が早かったこともあり、私は横になってすぐに眠りについた。



 翌朝、早くに目が覚めた私は持って来た缶コーヒーを飲みながらみーさんが起きてくるのを待った。朝食もいただける手筈になっていたが、早すぎたようだ。集中しても離れの周りに異変は感じなかった。時間のあるうちに依頼内容を思い出していた。



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 添九村の村長に就任してから彼は熱心に島の記録を確認し、観光資料を作ろうとしていた。資料作りは順調に進んでいたが、ある時島の人口が43年前に急に減っているのに気づいた。さらに調べると14歳の子供9人が同時に死んでいた。その43年前、つまり86年前にも14歳の子供が9人同時に死んでいた。どちらも不慮の事故となっていたが、この村で子供が死ぬのは珍しい。さらに過去の詳細な記録はなかったが、添九村の子供が同時に死ぬという記録がL県の図書館で散見された。

 自分の娘も14歳で、偶然にも同い年が9人いる。島の中で同学年が同時に生まれるのは不自然だ。それに最近娘が虚ろになっているように思う。年寄りは何か隠している。


 みーさんはこの依頼を見て何かしらを感じたのか、協会を通して村長とコンタクトをとった。第六感が働いたという。漠然とした内容の依頼を受けて動くことができるみーさんは意外と大物なのかもしれない。



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 ほどなくして朝食が運ばれてきて、みーさんが起きてきた。ご飯をいただいてから私達は『環境調査員』と書かれた腕章をつけてそれらしい装備を身に着け、村内を回ることにした。


 「昨日見て怪しかったのは学校と神社かなー。どっちから行きます?」


 「順路的に学校から行きますか」

 私は昨日もらった地図を見ながら言った。


 村長は軽トラックを貸してくれたので、それに乗って回ることにした。マニュアル車はやっぱりいい。車にこだわりはないし、運転も特別好きではないが、変速は楽しい。みーさんは昨日と変わらない表情をしていた。村民は、特に高齢の人はしばしばこちらを怪訝そうに見ていたが大半は好意的に感じた。


 しかし、学校に着いたときには、これから起こったことを予測するかのように雲行きが怪しくなり、雨が降り出していた。みーさんはさっきよりも暗い表情をしているように見えた。

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