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第52話 幽霊コレクション(後編)

第52話 幽霊コレクション(後編)



 ホテルは快適で朝食も美味しかった。コーヒーが美味かったが、おかずの選択肢はそんなにないのがいまいちだった。今までL県には用事がない限り行くことはなかったのだが、折角なので観光がてら駅周辺をふらついた。しかしそこまで下調べをしているわけでもなければ興味もない、おまけに金もそう使えないからすぐに新幹線に乗ってG県に帰った。何だったか、L駅前のあの像は有名らしいが特に見どころにも感じなかった。



 G駅に着いて一度下りたときに、古見さんから連絡があった。


 「もしもし、上野さんかい?」

 何の用事だろうか。この老人はメールを使っていないからこうして電話をしてくる。


 「はい。何の用でしょうか」


 「いや、聞き忘れたことがあってね、君、珍しい幽霊を知らないか?昨日の話とは別だ。何か知っていたらコレクションに加えたくてね」

 珍しい幽霊。かつて私を呪い損ねて、今は奴のところにいるであろう「夢の中の幽霊」のことが頭に思い浮かんだ。しかし…


 「すみません。まだ日が浅いもので、あてはありません」


 「そうか、悪かったね。年を取るとこれだ。いや、ともかく、例の件頼んだよ。では」


 「はい、失礼します」



 古見さんには悪いかもしれないが、別に奴を助ける義務はない。首の骨を折ったからもう勘弁なんて、全く思わない。一度拳を振り上げたなら、それの責任はとってもらわなくてはならない。どれだけのカウンターが返って来ようと。私に家族がいたら家族も不幸にするようなことをしてきたわけだからな。まあ、一族郎党が滅びきったら古見さんに渡そうか。その前に幽霊の方が消えそうだけれども。古見さんにはお詫びに何か変な幽霊を捕まえたらあげよう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 G駅付近を何となく歩いていると裏路地の方に犬型の怪奇を見つけた。怪奇自体はどこにでもいるから特に珍しいわけではない。気になったのはそれがきれいな犬型であったことだった。一瞬犬そのものにしか見えなかった。こういう怪奇もあるのか、と思った。


 (これは犬の幽霊だろうか)

 幽霊を見すぎたせいでなんでも幽霊に見える。幽霊でない怪奇も姿形は犬そっくりのこともあるだろうし、逆に幽霊でも無傷の犬の姿をしているとは限らない。怪奇に経験則は通じない。


 (そういえば、貰った瓶があった)

 カバンから瓶を取り出して握ったままコートのポケットに入れる。出しっ放しにしていると余所からはパントマイムをしているように見えるだろうから、隠しておくのが良い。そうしてから犬の怪奇に近づいてみる。こちらにはまだ気づいていない。どう見ても犬だが、こちら側に姿を見せてはいない。



 結構近づいた。勘の良い犬なら逃げている距離だ。犬の怪奇は何も反応せず突っ立っている。そういえば、この瓶のリーチはどのくらいだろうか。接触させる必要があるのだろうか。そもそも瓶が何も反応していないから、これは幽霊ではないのではないか。いや、幽霊なら反応するとは限らない。


 詳細な説明を聞いておかなかったことに後悔しながらも、何か起こるかどうか確かめられそうなぎりぎりのラインまで近づいてみる。


 (何も起こらない…)

 見なかったことにして戻ってもよいが、幽霊の可能性があって人間がもとではないモノにはそう遭遇できるものだはないと思う。試しに瓶のふたを開けてみようか。いや、やめておこう。取り出し方が分からないしどれだけ入れられるのかも分からない。いざというときに使うことができなくなる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 惜しい気がしつつもその場を後にして文松町に戻った。自宅に帰る途中にスーパーマーケットに寄り道して夕食を買った。それから古見さんに電話をして、瓶の詳細な情報を聞いた。どうやら幽霊に反応することは特になく、ふたを開けたらある程度近くのを吸い込むらしい。入れられる幽霊は上限はあるが、程よくで、出すことは専門の知識がなければできないから、雑多な幽霊を捕まえて溢れそうになったら再び来てほしいということであった。電話した時に古見さんは貴重な幽霊の情報が入ったと思ったのか、少し興奮していた。理由が違うとわかった時には声のトーンが落ちていた。


 夕食後、硬貨虫にお土産として買ってきた石をあげた。尻尾がいつの間にか切れていたから片付けておいた。ざらざらした、両面に猫のようなシンボルが彫られている鈍色の硬貨だった。それから本を読んで、SNSとメールを確認して、動画を見ているうちに時間があっという間に過ぎた。早く寝ないといけないのにだんだん睡眠時間が遅くなっていく。




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