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第42話 呪詛返し・その後(中編)

第42話 呪詛返し・その後(中編)


 荷物が崩れただけだと思ったが、再度ガタガタと音がなる。呪詛返しを失敗してまた戻って来たのだろうか。私は身固めをしているがみーさんは大丈夫かだろうか。しかし、この家には護符が貼られているからそう変なモノは入ってこないはずだ。そもそも戻ってきたのなら夢の中に来るはずだ。


 (まてよ…)

 そういえば、昨日片付けたのを忘れていた。普段は暴れないのにどうしたのだろうか。


 「ちょっと取ってきます」

 私はみーさんに断って隣の部屋に行きクローゼットを開けた。多少なりとも整理整頓されているその中に布を被せた水槽があった。音はそこからしていた。布を取ると硬貨虫が水槽の中で跳ねていた。音の正体は蓋にぶつかったときのもののようだった。


 (まさか寂しかったのだろうか)

 数日放置していても何のリアクションも示さず、水槽の中を気ままに動いている印象があったが。クリップやタルトストーンを入れておいても反応しないこともあるので腹?が減るということもないだろうし。尻尾が生えた合図なのかとも思ったがそんなこともなかった。水槽ごと元の部屋に持っていくとみーさんの目が硬貨虫に注がれた。


 「硬貨虫でしたかー。変な形してますねー」

 緊張の解けた顔になったみーさんは硬貨虫をしげしげと見つめた。

 「これ、噛んだりしないの?」


 「特に何もしないですね。動いたり跳ねたり、金属や石をいつの間にか食べているくらいですよ」

 水槽を定位置に戻してクリップを入れておいた。部屋に戻って安心したのか硬貨虫は動かなくなった。



 それからみーさんの趣味の話を聞きながらビールを飲み、楽しくなってきた私は冷蔵庫から日本酒を出した。この銘柄は偶々買ったものだが口当たりがよく今結構はまっている。熱燗にしてみーさんとお猪口で飲みながらエイひれをつついてとりとめもない会話をする。話が合う。気分が良い。本当は協会支部の仕事がないか聞いたり、その手の話をしたかったのだが、そういう気分には不思議とならなかった。次第に暖房とアルコールで温まってきたのか、みーさんはセーターを脱ぎだした。Tシャツは多少厚手のものだった。甘い香りがセーターの途端に濃く広がった。硬貨虫がまた水槽の中で騒ぎ始めた。いつもはおとなしいのに珍しいと思った。


 「ちょっと硬貨虫を見せてー」

 元から触りたかったのか、音をきっかけにしてみーさんが硬貨虫の話を出した。


 「いいですよ」

 水槽から取り出すのに掴むと火照った体に冷たい感触が気持ちよい。少し柔らかい。そのままみーさんに渡した。


 「おー、饅頭みたいで冷たくて気持ちいいねー。尻尾はないの?」


 「今はまだできていないようです」


 「ふーん。あ、ほら、逆さまにすると10万円ー、儲けたー」

 みーさんはそこらじゅうを眺めた後に逆さまにしてテーブルの上に置いて笑っていた。饅頭が3つ並んでいるのが見えた。硬貨虫の上下は一見すると分からない。硬貨虫は元の向きに戻ろうと体を動かしていた。水槽に戻し布をかけておくとおとなしくなった。


 「水飲みますけどみーさんも飲みますか」

 そろそろ酔いを醒ましておかないと翌日に障る。モチベーションは駄々下がりだが仕事はあるにはある。


 「そうだねー。ちょっと酔ったかも」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 水を飲んで一段落し、そろそろみーさんの帰る時間になった。もう寒いが駅までは歩いても行くこともできるから送っていくことにした。酔い覚ましも兼ねて歩きたいらしかった。飲酒したあとだから運転はしてはならない。

 外は予想通り寒かったが、着こんでいれば気になるほどではなかった。星がきれいだった。


 「そういえば、弦間さんに呪詛返ししてもらった夢の中の幽霊はどんなものだったっけ」


 「それがですね、夢の中に出てきて散々追いかけてくるだけなんですけど、逃げないといけないと思ってしまう幽霊でなんですよ。長い髪のボロ服を着た女の姿をしていてですね…」

 私はみーさんに幽霊の話をした。駅まで行く時間を潰すには丁度良いボリュームだろう。もう見なくてもよいと思うとすがすがしい。話し終えるとみーさんは少し考えこんだ。


 「それは生魑魅かな、もしかしたら」


 「いきすだまとは何でしょうか」


 「生魑魅は生霊で、人に祟る物ですよー。要するに誰かがいなくなれば良いと少しでも思えば現れかねないものですね。夢の中に現れる理由はわからないけれどもねー」


 「弦間さんの口ぶりだと、誰かが呪って幽霊を憑りつけたような印象を覚えました」


 「その可能性もあるよー。生魑魅を夢の中に送り込むのは素人が偶然できるとは思えないからねー」


 「怪奇は複雑ですね」

 いつも思っている。道の脇にうねうねしている訳の分からないモノが見える。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 みーさんを駅まで送り届けて家に帰った。家の中は甘い残り香が漂っていた。残った缶ビールとつまみは持って帰るのも面倒くさいということでもらったので少し酒代が節約できそうだ。しかし、あの量が余るということは元々どのくらい飲むつもりだったのだろうか。 

久々に何とか当日中に更新できました…

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