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第39話 木製の窓(後編)

第39話 木製の窓(後編)


 夜中の廃墟を草や瓦礫に注意して探し始める。足元に何が落ちているかわからないから危ない。釘やガラスが落ちていたら足や、転んだ時に着いた手を切りかねない。暗い中を一人はヘッドライト、もう一人は裸眼で徘徊している様子はこのまま都市伝説になるのではないだろうか。かつて駐車場として使われていたようで門の裏手の敷地はやや広い。茶色い建物は時折視界に入るが何の反応も見せない。それでも成人男性程のサイズは簡単に見つかるものであるはずであろう。


 一通り探したが人の死体は幸か不幸か見つからなかった。腐臭も特に感じなかったので日の経ったものはないようだった。他の臭いでかき消されているのかもしれないが。


 「上野さん、これが落ちていました」

 藍風さんは何かを見つけたらしく、空の瓶に何かの種を入れて持ってきた。茶色い建物の中で見つけた種とそっくりだった。


 「これは一体何なのでしょうか」

 普通の種でない。これも怪奇だ。


 「多分ですが、これが大村さんです」


 「これが、ですか」

 私には頭の中で結びつかない。


 「はい。それであの茶色い建物は建物ではなくて、植物の怪奇だと思います。食虫植物のように餌になる人間を誘致しているのでしょう」


 「それは確かに私も彼も引き寄せられたようですし、確かにあの建物は木でできていました。しかし餌と種は別ではないでしょうか」


 「うーん。餌の栄養は巡って種になりますからその辺りは同じですが、直接変わるのは不自然です。怪奇はよくわからないものだからそういうものなのでしょう」


 「そうなると種が外にあったのはわかりますが、地下にあったのは種として意味がないですね。ついでにもう一人失踪している人がいるのでしょう。その人が大村さんのカメラを持って行ったのか、元々カメラが落ちていたのか…」

 いろいろと分からないが、建物が植物だとして繁殖を考えているなら納得は行く。


 「その辺りを調べるのは協会に頼もうと思います。この建物はこうすればいいでしょう。中にある種は出てくるはずです」

 藍風さんは空を見上げると建物の入り口からやや左手にある草を二束にまとめて結び、それからその近くにペットボトルを置いた。その後、塩を手に取りつまんでペットボトルに入れ始めた。手が七往復ほどすると建物はたちまち消えた。その下には十数粒近くの種が落ちていた。終わったようだ。と、いうことは藍風さんの推測はやはり正しかったのだろう。


 「上野さん、終わりました」


 「ありがとうございます。種が予想以上に多いですね。ここに紛れ込んだ人達ですか。外に飛び散っていたのも集まったのか、私達が行ったところの他に部屋がいくつもあったのか…」

 藍風さんはもう完全に疲れているようだった。寒さもあるので早めに撤収しよう。

 「種を集めておきますので、藍風さんは先に車に戻っていてください」


 藍風さんに車の鍵を渡し、種を空き瓶に回収した。そういえば怪奇に触れることができているが、一般人からはどういうように映るのだろうか。種は複数の人の分であるだろうがここで選別できないのでまとめて入れて札を貼った。やっと終わった。腕時計を見るともう翌日になっていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 車に戻ると暖房がついていて寒い体に温かさが沁みた。藍風さんは毛布を被ってうとうとしていた。


 「藍風さん、これからどうしますか」


 「…」


 「藍風さん?」


 「…寝たいです」

 階段の上り下りから深夜の捜索で疲れ果てたのだろう。元々タフではないようだし、しかし、それでも頑張って対処が終わるまで気を張っていたのは芯の強さを感じた。



 仕方なく町に戻った。殆ど街の明かりは消えていたが明るい方へ行き、何とか泊まれるところを探した。なかったらどうしようか。今から家に戻ってまた来るのも厳しい。時間が経って何かが起こる可能性もある。あったとしてもどういって泊まろうか。警察に見つかったら(何も悪いことはしていないが)荷物も含めて面倒くさいことに巻き込まれるだろう。それを考えながら車を走らせていると何とか一軒だけ泊まれる普通のホテルを見つけた。


 「いらっしゃいませ」


 「シングル禁煙二部屋開いていますか、一泊で」

 受付の女性に尋ねた。藍風さんは半分寝てはいたが何とか歩いていた。目がとろんとしていた。


 「少々お待ちください。…はい、開いております」


 「ならそれをお願いします」

 不審に見られていないだろうか。幸い今のところ大丈夫のようだ。


 「ではこちらをご記入ください」

 どうしようか。近所の知り合いならこの時間に出歩いていても怪しくないか。どうする。


 考えた末に兄妹ということにして、自分の家の住所を書いた。ついでに苗字も揃えておいた。その後のやり取りは滞りなく進み、鍵を二つ手に入れ、藍風さんを半ば引きずるようにしてエレベーターに乗った。それから藍風さんと荷物を部屋に運んでメモを残し、自分の部屋に入った。本当に疲れた。風呂に入りたかったが朝に回して睡眠を選んだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌朝、いつもより遅めに起きた。体の節々はそこそこ筋肉痛になっていたが思っていたよりも軽かった。風呂に入り着替えて(着替えを持ってきてよかった)朝食を食べに行った。バイキングは色々あって楽しいが、朝のテンションだとそんなに盛る気は起きない。そこそこの量の料理を取って席に着くと食べ始めた。鮭の切り身とコーヒーも良かった。やむなく入ったホテルだが悪くないようだった。食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら外を眺めていると藍風さんが現れた。筋肉痛だろう、歩き方が少しぎくしゃくしてた。


 「おはようございます。昨日はありがとうございました」

 髪の毛が湿気を帯びている。シャンプーの匂いがする。


 「おはようございます。私はもう食べ終わったので気にしないで食べてください。先に帰りの準備をしています」

 変に疑われたらまずい。


 部屋に戻り荷支度をして昨日拾った種を再び見てみた。やはりどれも同じように見えた。協会に提出するレポートのドラフトを書いていると藍風さんからもう出られるとメールが来た。それからホテルを無事チェックアウトして廃屋を見に行った。特に何もなかったので依頼人の藤川さんのところへ行き、大村さんが見つからなかったこと、後日また連絡することを伝えた。その後、再び高速に乗って文松町まで帰った。藍風さんはほとんど寝ていた。まだ疲れていたのだろう。


 いつものように家まで届けて、私も家に戻るとすぐに寝た。やはり体を動かすことよりも運転の方が疲れる。後日、種は大村さんが変わったものということが分かった。普通の人にも見えないし、発芽してあの建物がまたできるかもしれないから封印されてどこかにしまってあると思う。他の人の種は11人分のものであった。こちらは協会が警察に情報提供して行方不明者の捜査がされたようだが見つかってはいない。窓に呼ばれた人たちなのか、誰かに入れられたのか、自分から入っていったのか。

(ホテルでの名前と住所の偽装は旅館業法6条1項に違反するようです。パラレルワールドと言うことでお願いします)

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