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第38話 木製の窓(中編)

第38話 木製の窓(中編)


 らせん階段は再び巻き戻っているようだった。速度が一定ではないのか、体内時計が狂っているのか、思ったよりも進んでいないようで1階分くらいの高さになっていた。このまま待っていれば突き当りは再び下に向かって、やがて上に戻るのだろうか。失踪者は見つからず、引き寄せるものの効果がわかった以上、結論を想像するのも易い。ここに残る理由はあまりない。


 「上野さん、食事中にも話しましたが、ここから出るには入って来た入り口を見つけるのが良いと思います。怪奇相手には何が起こるのかわからないので同じことをするのか安全です」


 「藍風さんの能力は、その、怪奇の枠からも外れたような方法ですがそれは安全なのでしょうか。何があれば思いつくのでしょうか」

 正当な方法の別に藍風さんのやり方でも脱出できないだろうか。


 「私の方法は安全だと思います。でも、できることとできないことがありますし、何がきっかけで分かるようになるのか分からないです。今も分からないです。お役に立てそうにないです…」

 少し困ったような顔で藍風さんは答えた。


 「藍風さんにはいつも助けられていますよ。きっかけは分かりませんからとりあえず出口を探しますか」

 少し照れるが疲れもあって元気のない藍風さんに元に戻ってもらいたい。


 「ありがとうございます」

 少し嬉しそうに藍風さんは答えた。



 藍風さんと私は周囲を探し始めた。円形の床に受付?があり、その奥にらせん階段が現れる空間がある。普通に考えれば階段は壁際にあったはずで、外から見た建物の形からここは一回り小さい円形になっているのだろう。そこまで広くない。私は壁を叩きながら反響や振動を確かめることにした。藍風さんは受付?の台の周りを調べていた。


 木の壁を一枚一枚叩いていく。コンコンと音がして一定の反動が返ってくる。隣の板と変わらないようだ。叩く力のぶれや個々の木の差もあるから全く同じではないが、隠し通路なんかがあるなら明らかに違うだろう。しかし、手の届く範囲を半周程しても何も見つからなかった。


 「上野さん、何か見つかりましたか」

 一通り調べ終わったのだろう、藍風さんがこちらに寄ってきた。


 「私の方はまだ何も見つかっていません。藍風さんはどうですか」


 「私もです。最初の階段があった所はこの辺りだったと思っていたのですが」

 藍風さんも私を真似してか近くの壁を叩き始めた。私も残りの壁を叩き始めた。


 コンコンと音と音が重なって空間に響く。耳が良くなければ聞き分けられないだろう。相変わらずどの壁も同じ反応が返ってくる。残念なことに残りの半周程も同じ結果だった。


 (どうしようか)

 次の手がかりは何かあるだろうか。このアプローチは間違っていただろうか。時間が時間だけにそろそろ出たい。


 「上野さん、どうですか」

 藍風さんが再度近づいて来る。


 (あれ?)

 足音が微妙に違う。


 「床を踏む音が違う場所がありました。藍風さんが今いるところです」

 私は藍風さんのいる方に歩み寄る。藍風さんは止まっている。その近くの床をリズムをつけて踏んでいくと2m四方ほどの範囲にある板が周りより高い音をしていることが分かった。


 「ここですね」

 私は改めて床を見る。見た目違いはない。分かったところでそれがどう脱出につながるのか。

 「鋸で切って見ましょうか」

 

 「うーん。何が起こるかわからないですがやってみますか」

 そういうわけで私は鉈で床に切り傷を入れるとそこに携帯鋸を差し込んで切り始めた。相当固い。いつ切りきれるかわからない。途中で再び鉈を下ろし、切り傷を広げていく。それを繰り返し、鋸の刃が半分ほど沈んだところで抵抗の掛かりが変わらなくなった。下の空間に貫通したようだ。冷たい空気が流れてきて、鋸のくずが舞う。そこからはただの力仕事で切り込みを足音が変わる辺りに沿って入れていくだけだった。途中で藍風さんが変わってくれたが、殆ど進むことはなかった。ただその気持ちがうれしかった。


 順調に刃は進んで行って、四方の二辺が切り終わったあたりで隙間にバールを無理やり差し込みてこの原理で床を壊していった。すぐに何とか穴と言えるものを開けることができた。上って来た時の階段はすぐ下に見つけることができた。その先に怪奇はこの建物を覗いて何もなく、外に出ることができそうだ。早く出てしまおう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 私は杖を先にやって藍風さんとともに外に出た。もう深夜だった。もう帰りたくもあったが、大村さんを、正確には恐らく大村さんの死体を見つけなくてはならない。


 「明るくなってから探したいですが、この建物が出ているうちの方が見つかるような気がしますので、もう暗いですが探しませんか」

 藍風さんが言うならそうだろう。


 「窓のあった辺りから飛び降りてしまったとしても、窓は外から見えないですし、らせん階段を回っていたせいでどの方角がどこかわかっていなかったですから、どこを探しましょうか」


 「上野さんに思いつかないのでしたら総当たりするしかなさそうです」

 藍風さんにはそういうのを探し出す超能力はないようだ。



 建物の中に入っていた時はそう感じなかったが、今の季節夜は寒い。高地にあるから尚更だ。息が白い。私達は一旦車に上着を取りに戻りそれから探索を始めた。


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