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第31話 協会員その2(後編)

第31話 協会員その2(後編)


 翌朝の早朝、まだ朝日も出ないころから嶽さんと朝食を食べて(レトルトだったので調理はしなかった)、辺りが少し明るくなり始めてからさらに奥に入る準備をした。嶽さんは法衣(鈴懸というらしい。烏天狗のような服)に着替えていた。背中の筋肉が盛り上がっていて、相当力が強そうだった。


 「上野。ここからは自分の身は自分で守れるようにするんだ。俺だけで十分だろうが、念のためこれを持っておくとよい」

 装備が終わってから自分の持つものとは別なのか、数枚の札と斧を渡された。斧は柄が細長く、刃の部分は小さかった。


 「ありがとうございます」

 どちらも投げるかすれば使えるだろう。多分。


 「まあ、念のため、だ」

 顔に不安が出ていたのだろう。



 私達は昨日入ってきた方向と逆の更に山の奥に入っていった。獣道に沿って歩いてはいたが途中で以前に切り開いたような道に入り、またかろうじて獣道のような道に入りを繰り返した。1時間ほど進んでから沢が見えてきて、一度そこで休憩することにした。持ってきた水を飲んで、(嶽さんは沢の水を飲んでいたが、)飴をなめ一休みした。


 「上野は体力が思っていたよりあるな。近道をするか」

 実は多少厳しい。帰りのことを考えると、できれば手前で怪奇が出てきた方が嬉しい。


 「ところで、昨日聞いた今追っている鎌鼬はこういうところにいるんですか」


 「上野はどのくらい鎌鼬を知っている?」


 「ええと、物を切り裂く妖怪で、三位一体で行動する。イタチのような姿でしょうか」

 フィクションで知っている程度で詳しいことも、本当に正しいのかも知らない。 


 「そうだ。怪奇はその姿につられていることがままある。この鎌鼬もそうで、イタチのような生活をするように見える。だから山奥まで探しに来ている訳だ」

 そういって一泊置くと再び話し始めた。


 「イタチは最近民家の屋根裏や床下に住み着く害獣だ。鎌鼬がイタチの性質を強く持っているならそうなるかもしれない。それを防ぐのに定期的に追っているが、何度追ってもしばらく経てば湧いてくる。厄介だ」

 確かに住宅街で切り裂き事件が起こったら非常に大変なことになるだろう。急所を切ってしまったら死んでしまう。



 休憩後の道は非常に困難だった。進み始めた途端に勾配が急になり、だんだんと岩肌を四つん這いで歩くようになっていった。それから、日の当たらない林を抜けた。切り開いた道ではないので嶽さんが鉈で時々枝葉を切り落としていた。彼の方が大きいので自分に引っかかることはなかったが、足元の悪さはかばいきれず、何か所か蛭に喰われていた。しまいには崖をロープを使って登っていった。


 (なぜこんなことをしているのだろうか)

 初体験のことで、あまりの過酷さにわずかにそう思った。


 「その調子だ」

 嶽さんは上からこちらの様子をうかがっていた。彼が先に素登りして木にロープを巻き付けていたから私が登れているわけだ。命綱はない。絶対に真似してはいけない。


 ようやく上にたどり着くと嶽さんはロープを回収し、「さあ、行くか」と言って先に進んで行った。それなりの装備をしてあの体格でとんでもない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 崖を上ってからすぐ、嶽さんが歩みを止めた。


 「待て。いる」

 そう小声で言って指を指した先には鎌鼬がいた。イタチの姿に似ているが、その姿は木々から浮いていた。まだこちらに気づいていない。


 嶽さんは何か呪文を唱えて自分の体を何か所か叩くと固そうな杖を構えて近づいていき、鎌鼬に突き刺した。


 「ギィィー!」


 けたたましい叫び声が聞こえた。その声を聞いて他の鎌鼬が飛び出してきた。多分嶽さんの姿は見えていないようだが、死体の辺りを興奮して飛び回っていた。それを冷静に杖で叩き落してとどめを刺していった。


 「この辺りにはもう少しいるようだ」

 一仕事終えて戻って来た嶽さんは先の闘い?をものともせず平然としていた。


 「そうみたいですね。姿は見えませんが向こうの方から臭います」

 鎌鼬の姿が見えるしばらく前から独特の臭いを感じていた。その姿を見たことでこの臭いがそれのものだとわかった。


 「面白いな。臭いか。俺が気配を感じた方向と同じだ」

 嶽さんは目を大きく開いてこちらを見ていた。



 それから数匹の鎌鼬を嶽さんが処理するのを見ていた。主に呪文を唱えてから近付いて杖で突いていた。杖が届きそうがないところに逃げた鎌鼬には九字を切っていた。逃げている獣相手に間に合うくらい素早く、それでも聞き取れるものだった。あらかた終えた私達はもと来た道を帰っていった。


 嶽さんはもう少し様子を見てから帰るらしい。わざわざ駅まで送ってくれた。本当に幸運なことに駅でそこまで待つこともなく、早めに大きな駅に着くことができた。それから終電に乗って何とか自宅にたどり着いた。少しでも遅れていたら帰れなかっただろう。下山しているときはまだ興奮していたのか疲れを感じなくなっていたが、家に近づくにつれ、体が重くなっていった。何とか風呂に入ってすぐに寝た。翌日の仕事がとんでもなくしんどかったが根性で乗り切った。攻撃の的にする餌を与えないように気を張るのは精神的にもより一層疲れた。

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