第284話 善良(中編)
第284話 善良(中編)
駐車場には他に何台も車が停まっていたし、私の車は駐車場の端にあるわけでもなかった。ゴミ出しのために表に出ていたであろう何人かはその惨状に気が付いたようであったが、しかしそのことに触れて心配する人も、警察が呼ばれていることもなかった。
私は唖然としたが、真っ先に心配したのは藍風さんの参考書だった。盗まれていないだろうかと車の鍵を開けたが、ありがたいことにそこに残っていた。車検証など他の物も一通り確認したが、何も盗られていなかった。ようやく少し安心して警察を呼ぶと、彼らが来るまでに朝食を携帯食糧で済ませた。
警察が着いた後、事情聴取ということで色々と聞かれた。何故夜中に外出していたのか、仕事は何をしているのかと何となく私が悪いように扱われた。これは彼らの仕事柄だと思うが、あまり良い気分ではなかった。別の警察が近くの家に聞き込みをしていたのが聞こえたが、住人は全く気付かなかったというだけですぐに話を切り上げていた。
一通りの手続き(?)が終わったころには既に昼食の時間を過ぎていた。警察署からの帰り道、ラーメン屋に寄って塩ラーメンを食べた。それなりに美味しい味であったのは感覚的に分かったのだが、美味しいと感じることができなかった。
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家に帰った後、戸締りをしっかりと確認してから買って来た防犯ブザーを窓際の床などに仕掛けてようやく一息ついたところで、冷静な怒りが腹の奥からこみ上げてきた。単にラーメンを消化し始めただけだったかもしれないが。不思議なことに恐怖はあまり感じなかった。とにかく冷たく、誰の仕業なのか、その犯人は何故その行動をとったのか、思考した。
まず、私の車のあった場所から、たくさんあるうちの1台ではなく私の車をピンポイントで狙ったと思うのが自然だ。誰が何故。私が損することを喜ぶ人間は。私に恨みを持つ人物は、と尋ねられて一応前の職場の人物の名を挙げておいた。
それから、私の生活スタイルは不定期的だ。私があの夜外出したのは全くの偶然である。つまり、近所の誰かが私の外出を犯人に連絡した、あるいは犯人そのもの、ということだろう。車にあれだけの損害を与えたのであればそれなりの音がなったはずだ。確実に何かある。あくまでもルールを破らない範囲で私の足を引っ張ろうと何か力が働いているようだ。全員が悪意の実態を知っているとは思わない。つまり、昔からいるわけではない、何をしているか分からない怪しい人物よりも近所の誰かとの付き合いの方が大事だから黙っているというのが相場だろう。
そうなると警察の働きに期待することもできない。軽い事件であることと、それらしい証拠が見つかることもないだろうことから推測できる。野生動物の仕業かもしれませんねと笑いながら言っていた若いあの警察の神経が知れない。
それよりも(前の職場の人間が絡んでいたら、というよりもそうとしか考えられないが)、遂に攻撃が表立って来た。明らかに目に見える形で、法律に違反する形で、出現した。その動機は知れないが、何かトリガーがあったのかもしれない。いずれにしてもこれで、私も堂々と防衛に徹することができる。ただし攻撃の曖昧さがなくなっても、不透明さが消えたわけではない。
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その時すでにみーさんに連絡をしていたから別に犯人が誰であろうが私にはすぐに分かる事であった。(ただし客観的な証拠にできない、人相が分かっても誰なのか分からない場合がある。)
それから夕食までの間、私は次にどの車を買おうかとインターネットで口コミを見た。普段使いには軽自動車で十分だが、いっそキャンピングカーを買っておけば仕事の時に重宝する。しかし山道や悪路を行くには4WDが便利だ。来春から都会に暮らすわけだから、要らないと言えば要らない。レンタカーで十分でもある。後に、仕事に使うなら会社で買えないかとみーさんに聞いたところ、そうする予定と返ってきた。




