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第279話 お化け団地(前編)

第279話 お化け団地(前編)


 暑い。特に、日中日の当たるところに置いた車に、エアコンの利いた建物から移ったときが、気持ち悪くなるほどに暑い。遮光する物があるだけで違うのだろうが、生憎アパートの駐車場にそういう物は取り付けられていない。


 それとは関係はないが、誰かと誰かが対立しているときに、一方の肩を持つのはその主張に賛同しているからということは稀と思った方が良いと考えている。誰かと誰かを比べて、どちらの味方になった方が自分が得か、あるいはどちらの方が好みか、が正解だろう。そう思って物事を見た方が分かりやすい。特に、弱者の振りをする方を庇う自分に陶酔している奴や、自分が先導しないで(それどころかその人を攻撃し)、いざそちらの方が利益が出ると状況が変わったらコロリと態度を変える風見鶏を相手にするときは、そうだ。


 絶対な善悪があるかないかと難しい哲学を考えるほど私は優れていないし、だからと言って何でも漠然なあなあで済ませるのも信用できない。その判断は困難だ。だから弁護士がいるのか、そのために弁護士がいるのか。



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 ツァップさんが日本に戻って来てから、ラジオで気になることを聞いたそうだ。ちょうどいい具合に時間が空いていた私は、そのラジオの噂を確かめようとするツァップさんに同行することにした。



 当日、私はまだ暑くならないうちに家を出て、文松駅からG駅まで電車で向かった。あの道を歩くのもあと何度になるのか分からないが、岩原さんに出会うことはあるだろうか。電車の中は空調が利いていて、藍風さんの様に参考書を片手に持った学生がドアに寄りかかって勉強していた。私も真似をしたわけではないが、サバイバルのハウツー本を読んで過ごした。ネットサーフィンをするのも役に立つが、本を読むのも良い時間の過ごし方だ。


 G駅からは新幹線に乗るといういつものルートを進みながら、私は駅弁を食べたり、本の続きを読んだり、見慣れてきた外の光景の微妙な変化に気づいたり、ラジオの内容を思い出したりしていた。ツァップさんの話と誰かのブログ、Tw○tterを合わせれば、たとえラジオを聞いていなくても話の筋は分かるものであった。



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 そのラジオは深夜帯にやっているもので、そのメールが読まれたときのテーマは「あなたの町の知られていない怖ーい話」であった。その5つ目の話が、お化け団地の話である。


 V県の暮田長町にはお化け団地と呼ばれる廃団地があります。郊外にあるそこは僕が子供の頃から誰も住んでいません。僕は、この春大学を卒業して小さな会社の営業部に入ったのですが、最近道路工事があって、普段は仕事で通らないその団地の近くを通り、子供の頃から何一つ変わっていないその姿にふと興味を持ちました。


 その団地は最初にも書きましたが、僕が子供の頃から誰も住んでいませんし、取り壊してその土地を別のことに活用するわけでもありません。父が子供の頃、私の町は活気があって外から人がたくさん住みにきていたのですが、そのときに団地はできたそうです。ただ、何があったのか、どんどん人は減っていきました。


 小学生のころ、一度だけ、友達と自転車でその団地の中まで行ったことがあります。建物自体はコンクリートでしょうか、頑丈にできていましたが、割れた窓の隙間から床に畳が生えているのが見えて、ドアも、すりガラスの模様も古臭く、掲示板に刺さっていた画鋲は錆きっていました。流石に建物の中に入る勇気はありませんでした。そこに着くまで私たちははしゃいでいたのですが、場の雰囲気にのまれたのでしょう、何をすることもなく、一目散に逃げました。カラスがやたらと多かったような気がします。その夜、どこから伝わったのか、父親に団地に入ったことがばれていて、こっぴどく叱られました。


 今になって思えばただ敷地を通っただけでした。それにしては強く叱られたような気がします。当時の私は、父が誤解して私たちが建物の中で悪さをしたと思い込んだのでしょう。それを聞くにも父はもういません。


 知り合いに聞き回って見ました。噂では、そこには飛び降り自殺した女子高生の霊がいるそうです。他にもベランダから下を見ている主婦の幽霊、いつの間にか後ろにいるおじいさんの幽霊、鬼ごっこやかくれんぼをする子供たちの幽霊、とにかく色々な噂がありましたが、最初の女子高生の幽霊の話が一番よく知られているようです。


 どうですか? この団地、僕はもう行きたくないですが、許可を取って入ってみたら面白そうじゃないですか?



 この話というか団地、作り話ではなく実在するそうだ。ツァップさんが何故ここに行こうと思ったのかだが、カンだそうだ。

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