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第278話 裏供養(後編)

第278話 裏供養(後編)


 それから古見さんと一緒に裏供養を観戦(と古見さんは言っていた)しながら、古見さんが各人の過去を解説をするのを聞いた。例えば、兄弟の中で自分だけをあからさまに敵として扱われた女性の話や、妊娠した妻に苛烈なマウンティングをしかけた叔母と男性の話、全て否定されていて、両親が死ぬまで仕事もさせてもらえなかった男性の話…、事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、これらの一つ一つで本が一冊かけるだろう。恐ろしいと思うことは、これらのどれも表沙汰にはなっていないということだ。閑静な住宅街の、その家の中に何が起こっているのか、想像してもしきれない。あるいは学校のクラスで、全校集会で、近くにいる同世代がどういう暮らしをしているのか。


 この裏供養、どうやって対象の人物を見つけているのか不明だが、少なくとも親族の幽霊(血縁かどうかにかかわらず)だけを対象としているようである。徹底した調査が行われているようで(いくつか質問をすると全て答えが返ってきた)、単なるインジャスティスコレクターではないようであった。


 盆の時期、あの世から幽霊が現れやすい時期、向こうの都合を問わずこちらに引きずり出して人形に強制的に憑りつかせているわけだ。古見さんの能力であろう。幽霊博物館で見たものに近い。



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 イベントが佳境に近づくと、モニターに流れる映像は過激さを増していった。ある男性は老爺に馬乗りになって、その腹に包丁を何度も突き立てていたり、ある女性は煮えたぎる湯を正座した老爺と老婆の頭にかけていたり、またある女性は老婆を半裸にして、その背中を割れた竹で皮膚が切れるほどに叩いていたりしていた。その反応は言い訳か、あるいは「もうやめてくれ」と言ったものであり、懺悔の様はあまり見られなかった。幽霊の口ぶりからして、謝った所で変わらないのだろう。もう何年も、毎年、痛めつけられているモノもいたに違いない。


 そうして、裏供養は終わった。幽霊の姿が消えると、参加者は時間差で部屋から出て行った。呆然としている者、すっきりした表情の者、どこかに感謝を示している者…、その全員が部屋から出るのを待たずに私たちは来た道を戻った。


 帰りの車の中で古見さんは私に感想を求めてきた。当たり障りのないように答えたが、どうやら不満そうであった。しかしすぐに話題は変わり、最近捕獲した幽霊の話となった。駅に着いた後も、古見さんはそのまま一緒に夕食を食べ(て話を続け)たがっていたが、津上さんに制されてしぶしぶと言った様子で別れを告げてきた。



 帰りも念のため一直線に家に帰ることはせず、反対方向の新幹線に乗って適当な駅で降りてから夕食を食べた。居酒屋でビールとから揚げ、串物とシメにネギトロ丼を食べた。量はそこそこあったはずだが簡単に腹に収まった。先に飲んでいたワインが後から効いてきて、ホテルで飲み直す気分になれなかった。それでも缶コーヒーを買うのにコンビニには寄ったが。


 風呂に入りながら考えた。何がどうであれ、裏供養の参加者が受けた行為が彼らの中で鬱屈して他人に矛先を向けてしまうくらいなら、あれで発散した方が社会の安全のためになる。幽霊が生前に行った行為に見合うのかどうかは分からない。そもそも私人による傷害は手術等の例外を除いて法律で認められていないが、相手は怪奇。死人に口なし。あれは、法的には何に当たるのだろうか。


 ちなみに、複数の場合は割引がきくとは言え、裏供養の依頼料はそれなりの値段であった。例え怪奇の存在を知っている人でも、特定の幽霊を呼び出すのは専門の知識と技術、それから才能がいる。だからそう簡単にはできない。サービスが価格に見合っているかは人それぞれだろうが、テクニカルな面では相応だと思う。それを年一の楽しみにすれば、節約もできて、より稼ごうと頑張れそうなものだ。

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