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第269話 丸い鏡(中編)

第269話 丸い鏡(中編)


 程なくして地方の駅に到着した後、駅近くでレンタカーを借りて荷物を載せてから、私たちは昼食を食べにファミレスへ行った。顔が似ていない年の離れた男女3人組の姿はどう映っていたのだろうか。から揚げ定食を食べた。


 それから車の中で少し時間を潰した。駅前のコインパーキングは地方と言えどもそれなりに高価で、そこに車を停めてその中にいる私たちは不自然であった。後ろの席で少しソワソワしている桾崎さん、助手席で参考書を読んでいる藍風さんと一緒に待っているとスマホが振動して、見ると、宍戸さんから駅に着くというメッセージが来ていた。駅に車を回すとすぐに、サングラスとキャップ姿の、芸能人の気配を消しきった(それでも器量が良いことがその上からも伝わってくる)宍戸さんが現れた。


 「来ましたね」

 藍風さんが助手席の窓を開けて、外に向かって「こちらです」と声をかけた。宍戸さんがこちらを向いて、映画のワンシーンのような輝く笑顔を向けた。


 「お待たせっ」

 車に乗ってきた宍戸さんがウキウキした様子で言った。


 「お久しぶりです」「お久しぶりです」


 「そうですね。そちらが…?」

 宍戸さんが隣に座っている桾崎さんに興味を移した。


 「彼女が桾崎さんです。陰陽道と修験道の修業をしていて、とても頼りになるんですよ」

 私が車を走らせ出しながら答えると、当の桾崎さんも少しわたわたしながら自己紹介を始めた。


 「あ、桾崎澄、です。小学6年生です」


 「こんにちは、桾崎さん。宍戸ありすです。よろしくね」


 「はい! テレビで見ています!」


 「ありがとうね。私、実はこの間怪奇に巻き込まれたんだけど、そのときに対応してくれたのが上野さんと知都世ちゃんなんですね。それで仲良くなって、今日一緒に行くことになったんですよ」


 「あ、はい! 報告書読みました。でも、怖くないんですか?」

 自分の書いた報告書を読んだと言われると少し気恥ずかしい。ちょうど信号が赤になった。交差点を渡る人々の中に化け狸がしれっと混ざっている。ジャケットを片腕にかけてハンカチで汗を拭いている。


 「うん。私、実はホラー漫画や小説が趣味なんですね。だから、本当にこんな世界があるのに驚く方が大きいんですよ。それに、桾崎さんもいてくれるからね」

 宍戸さんが茶目っ気のあるウインクをした。桾崎さんが綺麗なものに憧れるような表情をしたのが見えた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 私はしばらくの間車を走らせた。宍戸さんが興味津々で桾崎さんに質問をしていた(これが結構私にも役に立つことであった)。外の建物がどんどん低くなって、建物もなくなったところで宍戸さんが前の日に約束していたことを思い出した。


 「そうだ! あの、硬貨虫、見せてくれるんですよね」


 「ああ、そうですね。後ろの荷物に入っていますから、そこの空き地に停めましょう」


 車を停めると桾崎さんが私の荷物を取ってくれた。中から硬貨虫の入ったケースを取り出すと、硬貨虫がご機嫌そうに少し動いた。


 「元気そうですね」

 藍風さんが硬貨虫を見て、可愛がるように言った。


 「ええ。…宍戸さん、これが硬貨虫です」

 手を伸ばしている宍戸さんにケースを手渡すと、桾崎さんが興味深そうに中身を眺めた。


 「これが硬貨虫ですか。お饅頭みたい」

 桾崎さんがツンツンとケースを突いたが、硬貨虫は全くリアクションを取らずに悠々としている。


 「…どこ? もしかして小さいのかな?」

 宍戸さんがケースの中を凝視して、少し向きを変えて角の方を探している。やはり、そうだろうと思った。


 「ケースの中央にいます。よく目を凝らしてみてください」

 念のためにどこにいるのかを伝えると、宍戸さんが言われた通りにしたのが見えて、諦めたようだ。


 「私には見えないのかな。うーん、残念」

 宍戸さんがそう言うと、ケースを私の方に戻した。それを再び荷物に入れると、桾崎さんに渡し、荷台に置いてもらった。


 入道雲の下、私たちはどんどん山中へと向かっていた。アスファルトの上には蜃気楼がゆらめいていた。

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