第26話 七不思議についての考察
第26話 七不思議についての考察
朝起きてから週末の家事をまとめて行い、昼前にスーパーマーケットに買い物に行った。卵を普段よりも安く買ったが家にまだそこそこ残っていた。しばらく卵料理中心になりそうだ。みーさんの愚痴はもう来なくなったので踏ん切りがついたのだろう。昼食を終えてから文松中学校で起こった七不思議について記録を見直して色々と考えた。後でレポーティングして協会に売れないだろうか。時間になる少し前に駅前の純喫茶に向かった。
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そこは以前来た時と変わらず落ち着く雰囲気だった。この間と同じブレンドコーヒーを頼み、窓際の席で時間を過ごした。そういえばここのマスターも怪奇を体験したと藍風さんから聞いたことがある。特に面識はないが、いつか聞いてみたい気もする。ほどなくして藍風さんが現れた。
「お待たせしました」
学校から直行したのだろう、荷物を持ってきている。自転車をどこかに停めているのだろう。初めてここで会った時も制服を着ていたのを思い出した。
「いえ、大丈夫ですよ。文化祭は楽しかったですか」
「はい。良かったです。来てくれてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ楽しかったです。ありがとうございます」
藍風さんはいつものを頼むと席に着いて荷物を横に置いた。来慣れているようだ。藍風さんのコーヒーが来て一服してから本題に移った。
「そうしたらそろそろ七不思議についての話をしてもよいですか」
話が途切れたところでタイミングを計る。
「はい、それでお願いします」
私が話す様だ。
「まず、前提をまとめますね。文松中学校で、
・新校舎の七不思議が何故か流行り、それが文化祭前日に怪奇として現れた。
・それに加えて旧校舎の七不思議も怪奇として現れた。
・新校舎の七不思議に対処中、藍風さんたちと別の所にいた。
・その全てを対処することで怪奇から逃れることができた
というものですね」
「はい、学校で七不思議が流行った理由はよくわかりません。特にないんだとと思います」
学生の時はそういう話が流行る物だから納得はできる。
それから自分に何が起こったのかを話した。(藍風さんは校内新聞をずっと漁っていたそうだ。)
「個々の七不思議については藍風さんのおかげで対処できていましたが、あれはどうなのでしょうか」
「そうですね、私は新校舎の七不思議があやふやだったので江崎さんがいなかったら元がわからなかったです。詳しい情報が多いほど私はやり方が思い浮かぶことが多いです。だから今回は事前に準備してメモをお渡しできたんです。旧校舎の七不思議は知っている生徒はほとんどいないので城山さんがいなかったら詰んでいたでしょう」
あの2人がいなかったらあの空間から出られなかったわけだ。
「江崎さんと城山さんに感謝ですね。そういえばあの怪奇の中に確実に不可思議なものが2つあるんです」
「それは何ですか」
「新校舎の保健室のベッドに置いてあった江崎さんの人形と、旧校舎の理科室に現れた骸骨標本です」
「うーん…」
目を伏せて顎に手を置き、首を少し傾けているのが様になっている。その動きにつられて潤いのある唇に視線が行く。
「保健室のベッドは人形にされたのが江崎さんだったということでしょうか。でも、江崎さんは何ともなかったんですよね」
「そうですね、部屋に入った時にはもう置いてあったのだと思います。その時江崎さんは部屋に入っていませんでした」
「旧校舎の骸骨標本は2-4の壁に埋まっている骸骨の話で仲間にされたものでしょうか。でも、私達の他に誰もいなかったはずですよね」
「そうだと思います。あれだけ何もいなかったら音か何かで私が気づいていたとは思います」
「そうですよね…。そもそも、何故私達はあの怪奇に出会ってしまったかです」
(そう。それも気になっていた…)
「私が校内に入ることは基本的にないのに、あの日偶々校内に車で入って、藍風さんと城山さんと江崎さんを乗せたら出られなかった。と言うことは私が校内に入ったからですかね、あるいは文化祭前日というのか何かあったのか」
「上野さんが原因ですか…。あ、一度上野さんは私を迎えに車で来たことがありました。だから上野さんに直接の原因があるとは考えにくいと思います。卒業生でもないですから関連もわからないです」
「そうですよね…。藍風さんを車に乗せて出たことがありますし…。」
しばらく2人とも無言になる。ふと、思いつく。
「江崎さんと城山さんが出ようとしたからと言うことはありませんか」
「2人がですか」
「そうです。江崎さんの人形が新校舎の保健室にありましたし、旧校舎の骸骨標本は…、そう、城山さんのものだとしたら、2人があの日出ようとしたことがきっかけだとすると、原因なのかもしれません」
「少しわかったような気がします」
「つまり、あの日あの怪奇は2つの次元に繋がっていたのでしょうか。別の次元の?、あるいは未来の?江崎さんと城山さんは七不思議に巻き込まれて、それがこの次元の2人を呼び込んだのかもしれません。もし私達が立ち寄っていなかったら、この次元の2人もそうなって、また別の次元の2人に同じことを繰り返していたのかもしれません」
「その可能性はありそうです」
「まあ、怪奇ですから、わけのわからないことの可能性もあります」
そういってコーヒーを飲みほした。
「それなら上野さんと江崎さんが新校舎に入れなかった理由がわかる気がします。自分達が見つかるまでまた別の次元?に閉じ込めていたのかもしれません」
「それは一理ありますね。何故あの日に起こったのかはわかりませんし、何にしても想像の域ですが、どちらの七不思議ももう対処した以上、また起こることはないですよね」
「そうです。もうないです」
あらかた話し終わって何となく腑に落ちた私達はそのまま夕食をそこで摂った。私はナポリタン、藍風さんはカルボナーラだった。外は暗くなっていたので藍風さんを送り(自転車を押しながら歩いた)帰宅した。
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この七不思議について、正確な調査はもう必要ないと思うし、推論だがなんとなくまとまってよかった。と同時に今後また巻き込まれたときに藍風さんがいなかったらどうなっていたかと思うとぞっともした。今回ならはらわたを抜かれて楽器にされていたかもしれない。今は上手くいっているが、恐ろしいものを相手にしているという意識を持たないといけない。