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第251話 カッコウ(前編)

第251話 カッコウ(前編)


 暑い。日差しが眩しい。これがピークでも良いと思うのに、これからどんどん激しくなっていく。子供の頃はこれほど暑くなかった気がする。本当にそうなのか、年を取ったからなのか、エアコンの普及で耐性が低下したのか。


 ありがたいことに協会から自分に直々にオファーがあった。始めに見たときはスパムかと思ったが、二度読んでどうやら本物らしいと分かった。これも、今まで結果を出した成果だろう。報告書の再提出も何度かやらされたが、実に嬉しい。真っ先に藍風さんに伝えたら、珍しく高めのテンションで「おめでとうございます!」と返ってきた。ただ、その依頼の日程がどうやっても平日で、藍風さんの模試と被っていて、2人で行くことはできなくなっていた。藍風さんはほんの少し不満げのようだった。


 まあ、それとは別件で、藍風さんと一緒にツァップさんから頼まれた依頼の手伝いをすることになっている。こちらは休日の仕事だ。藍風さんは、模試の前でも仕事を止めない辺り、ストイックなのか余裕なのか、しっかりしていると思う。



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 当日、少し気温が低めだったお陰ですがすがしい朝を迎え、準備してあった荷物を持って、硬貨虫の頭(?)を撫でてから、文松駅へ向かった。駅の前には藍風さんが先に来ていた。夏らしい爽やかな服が良く似合っていた。風が彼女の髪とスカートの裾を揃えて波打たせた。


 私たちは電車に乗ると、藍風さんは参考書を開き、私はタブレットを取り出し、隣り合わせになってG駅までの時間を過ごした。電車の揺れがリズミカルに藍風さんの小さな肩を弱く上下させていた。何度目かに黒髪が白い首筋を隠したが、藍風さんの意識は参考書から離れていなかったようで、元に戻すことはなかった。


 G駅で小学生のようなファッションが逆に似合っているツァップさんと合流すると、私たちは新幹線に乗ってL県へと向かった。藍風さんとツァップさんが前の席に座っていたが、仲が良いようで(お互い「知都世ちゃん」、「ケイテちゃん」と呼び合っていたし)、2人とも静かに本を読んでいた。


 私は先ほど同様タブレットで遺伝子についての簡単な読み物を眺めていた。読み終えた後は窓の外の、青空と濃淡の明瞭な緑を見ながら、今回の依頼内容について考えていた。



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 L県の桜井市に住むNさん(仮名、男性、30代)は、最近息子(園児)が変に見えることがあるという。イヤイヤ期ではなく、今までは明るく活発で優しい性格であったのが、ふとした拍子に低い声でチクリと不愉快なことを言うようになり、子供らしい張りのあった肌が妙にしわだらけに見えることがあるそうだ。始めの頃は気のせいだと思っていたらしい。奥さんに相談しても一笑に付されたという。


 ある日、決定的な出来事が起こった。Nさんが深夜遅く会社から家に帰る途中、ファミレスの裏手を通ったとき、そこに倒されたごみ箱を四つん這いになって漁り貪っている姿、間違いなく息子の姿を見たのであった。Nさんが近づくとソレは逃げていき、急いで帰宅して息子の寝顔を見ると、いつも通りではあったのだが、どうにも何か決定的に違っている気がして、眠っている奥さんを起こして確かめてもらおうとも考えたが、心配させるのも悪く、その日はそれで終わったという。


 しかし、Nさんはどうにも違う感覚(Nさんは依頼の説明にどうやってもパズルのピースがはまらない感覚と表現していた)がして、知人の伝手で協会に依頼をした。奥さんからすると、Nさんの妄想で怪しい集団に無駄金(結構高額である)を使うことになる。だから黙って自分の貯金から出したそうだ(奥さんは現在実家に戻って羽を伸ばしている)。


 この依頼をツァップさんが受ける理由は、Nさんの息子に悪霊が憑依しているかもしれないからだ。私と藍風さんが一緒に行くのは、通訳(もうほとんど必要ないと思うが)とソレが霊ではない場合の戦力であり、協会がそのように強く推奨していたからである。ということは協会もソレの正体を判別しきっていないのだろう。

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