第250話 怪奇の発生する理由
第250話 怪奇の発生する理由
私たちは引き続き作業を続けた。みーさんは隙を見てマネキンに触ろうとしていたが、なかなか難しかったようですぐに私と一緒に結界の管理をし始めた。足と頭のない上半身だけのマネキンは、金属の棒に串刺しになっているから歩き回ることはできず、代わりにゆっくりと回転していた。
合間を縫って私たちは原因と思われる場所、つまり、マネキンを付喪神化させるような影響を与えた場所を探した。ただ、この手のことは私も、みーさんも、不得意であったから元から見つかることは期待していなかった。
そうやって朝を迎え、警備員や早出のスタッフが来ると、マネキンたちは静かになった。私たちは結界を片付けて、依頼者の社長に連絡を入れると、彼らが来る前に一旦ホテルに戻った。
朝食のバイキングはごく普通のものであったが、自家製らしい梅干しと紫蘇が強烈にすっぱく、しょっぱく、ご飯が進んだ(ただそのご飯は水っぽくあまり美味しくなかった)。みーさんは「この梅干、熱燗に入れたら美味しそうですよねー」と言っていた。私も同意見だった。だからといって朝食中に日本酒を買ってくるほど私たちは無茶苦茶ではない。
百貨店に戻り、社長と店長に事の次第を報告すると、少し憐みを含んだ顔つきで「そういう事なら仕方がないですね」と言われた。マネキンたち(?)の要望は残念なことに通らなかった。
しかし、そこから若干難航した。彼らの言い分は要するに、駅前開発を推進した市、あるいは原因となる土地を持っている人物が依頼料を支払うべきであるということであった。何にせよ、依頼料を支払わないつもりなら私たちも何もできないとみーさんが静かに伝え、それからもし土地の所有者と話をするつもりなら、こちらができることはその手のことに詳しいスタッフを用意することだと伝えた。それで社長は下りた。
ただし話し合いには時間がかかるから、まずは証拠を記録して、その後にすぐ対応をするということになった。その後の引継ぎは、その地方の支部に連絡を取ってやってもらえることになった。
*
私たちはホテルに戻って、眠った。チェックアウトをしようと思えばできたが、そこまで急ぐ用事があるわけでもないし、徹夜明けでもあった。協会もそれくらいの余裕はあるようだ。
眠る前に考えた。今回のように建物や大地の形が変わることで、(少なくとも一般人にとって)偶発的に怪奇が生じるのなら、土地や家を買うときは慎重になったほうがいい。昔どのような場所だったのかや言い伝えはもちろんであるが、オカルトな方面でも、今後の宅地開発などを考察して、買うにふさわしいか考えるのが良いだろう。幸い伝手はある。あるいは、そういう土地を売りつけて、怪奇が発生したら自分たちが対応しに行くか、定期的に期限付きの護符を売りつけに行くか。探せばその手のことをやっている人はいそうだ。
他にも、人の感情(憎しみ、恨み、恐怖など)や思い込みが怪奇を生み出していることは間違いがないだろう。一個人の強いものから集団の漠然としたものまで、環境要因と絶妙な塩梅で混ざり合って、怪奇が発生する条件を満たすと思われる。これを上手く逆算すれば人工的に望んだ怪奇を作りだすことができるかもしれない。そう思いついたところで、とっくに行われていることだと気づいた。召喚の儀式や式神…、違うような、同じような、と考えているうちに眠気がやってきた。
起床した後、シャワーを浴びてコーヒーを飲んでから協会のHPを見たが、中々できそうな依頼もなかった。それから、ふとマネキンの値段を興味本位で調べた。これが、意外と手の届く価格で、関節もそこそこ自由に動かすことができる。何に使うのかと言われると、自分が家にいないときでも外から見ると人がいるように見えるようにするか、あとはポーズを取らせて絵を描くときのモデルにするか、だろうか。霊能力で操って戦わせるのは…私には不可能だろう。第一、それを可能にする手間をかけるよりも、それを振り回すか投げつけた方が手っ取り早い。
夜はみーさんと居酒屋に行った。このときに色々と話したが、やはりゲームの話が一番長かったと思う。つまみの唐揚げはさっぱりめの味付けでビールとよく合った。やはり日本の居酒屋は気が楽だ。




