第25話 文化祭
第25話 文化祭
文松中学校の文化祭は前日の怪奇がなかったかのように普通に執り行われた。ありがたいことに一般客は午後から来校可能だったので、午前中は思う存分に休むことができた。七不思議の対処は肉体も神経も使い、疲れた。3人もさぞ疲れていることだろうとも思った。昨日の一連の出来事で卒業生でもないのに校内に詳しくなってしまったが、何だかんだ文化祭に行くのは楽しみだった。中学生のときは文化祭で何をしたのか覚えていない。どんなものだっただろうかと思っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昼食を軽く取ってからのんびりと文化祭に向かった。昨日の雨は夜のうちから止んでいて道も歩きやすかった。学校に近づくにつれ似たような保護者がそこそこ歩いているのが見えた。校門のところで来校許可証を出し学校の中に入った。そういえば、藍風さんはどういって私の来校許可証を出したのだろうか。未だに知らないがいつか聞いてみたいと思う。
勝手知ったる校内を進んで藍風さんのクラスに向かった。広い廊下には学校の授業で作った粘土?作品や、抽象画、習字が飾ってあった。全校生徒のものは無理だから代表のものだけなのだろう。あまり自分にはよくわからなかった。藍風さんのクラスの前では藍風さん、城山さん、江崎さんが待っていた。
「こんにちは」
昨日の出来事があった割には元気そうだった。若いってのはすごい。
「あ、こんにちは。昨日は本当にありがとうございました!」
江崎さんは割と明るく振る舞っている。目がキラキラとしていて何だか犬に懐かれたような気分だった。
「ありがとうございました。あのままだったらどうなっていたか考えるともう怖くて…」
江崎さんの方はあのことを気にしているのもあると思うが、怖かったのだろう、少し暗い表情だが昨日よりは幾分良い。
「それでは上野さん、一緒に行きますか」
当たり前のように藍風さんが行っていたが、頬は少し赤く目線は私の横に向いている。中学生くらいなら保護者?と回るのは恥ずかしい物だろうに、わざわざ律義にしなくてもよいのに。それでもせっかくのお誘いだから「そうですね」と返事をした。
まず藍風さんのクラスに入って、写真の掲示を見た。同級生が受付をしていたが藍風さんは特に気にしていないようだった。城山さんと江崎さんは挨拶の後にそれぞれ自分たちの持ち場に戻ったようだった。写真はよくわからない。きれいな景色を写したものはきれいだと思ったが、よくわからない物を置いて撮影したものや、フォトショか何かで左右のピントを変えたものは何が言いたいのかよくわからない。本当にこういうのは苦手だった。藍風さんのはというと、どこかの山の風景を撮っていた写真だった。
「きれいですね」
思った通りに伝えたが、無難すぎたかもしれない。
「ありがとうございます」
まんざらでもなさそうだ。
「これはどこの山ですか」
話をつなげるのに聞いてみる。
「ここは始めた会ったところです」
ああ、あのX(仮)と出くわしてから藍風さんに会った、あの山か。そういえばあれ以来行っていない。
「今度一緒に行きませんか」
「そうですね、今度行きましょうか」
そんなに写真をほめられたのがうれしかったのか。
それから一緒に多目的教室に向かった。お化け屋敷をしていた場所だ。保護者はいたにはいたが一緒に回っている人はほとんどいなかったので結構恥ずかしかった。窓の外に見えたグラウンドでは何かのパフォーマンスをしているようで人だかりができていた。雨が降っていなくてよかったと思う。
多目的教室の前には受付がいた。城山さんだった。私達の姿を確認すると中に「2人入りまーす」と言ってそのまま入り口まで案内してくれた。ちょうど人がいない時間帯だったようで、中も休憩していたのだろう。悪いことをした。中は暗く、段ボールで作られた白い仕切りに血糊が塗られていて、ところどころに物が置いてあった。窓は黒く覆われていて、渡された懐中電灯がなければよく見えないようにできていた。懐中電灯もわざわざ中に何かを入れて暗くしてあるのがうまいと思った。床面は、誰かが転びでもしたら大事になるだろうから何もなかった。ただ、私にははっきりと見えるし昨日の方がよっぽどだったので特に怖くもなかった。藍風さんも普段からして怖くはないだろう。もはや巡回のようだった。お化け役も飛び出して来はしたが上手に驚いてあげることは2人ともできなかった。
「がおー!」
物陰からお化け役が飛び出してくる。怖くはない。ただ、本当に飛びついて来るとは思っていなかったので驚いた。その顔を見ると江崎さんだった。狼の格好をしている。狼男か、いや狼女?か。
「食べちゃうぞー!」
知り合いが来てはしゃいでいる。適当に頭を撫でる。
「頑張ってくださいね、でも人に飛びついたら危ないですよ」
「えへ、ごめんなさい。でも上野さんだけしかしてないですよ」
本人は満足したのか持ち場に戻っていった。
そこからも見せ場はなく、出口からすんなりと出た。入った時にはなかった短い行列が受付の前にあった。何となくだが七不思議が流行ったからこのお化け屋敷が計画されたのだろう。内容は異なっていたのは途中で実現可能な方向に舵が切られたのだと思う。
その後、様々な展示を見た。色々なクラスの展示、科学部の地元の生物の研究結果発表(私の壊した人体模型はそこにきちんとあった)、新聞部の校内新聞一覧(これにずいぶん助けられた)、PC部の自作ゲームソフト(簡単なアクションゲームなのに藍風さんは苦戦していた)…。しばらく回って小腹が空き、体育館で行っていた出店?に行った。火は使えないだろうからか、電子レンジとホットプレートでいろいろと作っていた。藍風さんが言うには主に運動部が主催で行っているとのことだったが、後ろで肝心なところは先生が目を光らせていた。私達は適当に飲み物とたい焼きを摂った。紙皿と紙コップなのが文化祭らしかったがまあ衛生的にそちらの方が良かっただろう。
藍風さんと文化祭の出し物の話をして一段落したところで、ふと、例の七不思議の解決していないことが気になった。今までが楽しくて忘れていた。
「藍風さん、昨日の七不思議について、まだよくわかっていないところがあるのですが」
その話、というか答え合わせなのか、をしようとしたとき、チャイムが鳴った。閉校の時間が近づいていた。一般客は帰るが学生は明日の準備があった。
「私も聞きたいことがあります。明日の午後16時に、この前の喫茶店で話すのはどうですか」
予定はない。
「大丈夫です。それでは明日、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
文化祭は土曜終日と日曜の午前までで、午後から後片付けをするという。私は家に帰り、そのまま夕食を食べた。SMSにみーさんから「今回のポ○モン新作、好きなポ○モンがリストラされていたー。ゲームの出来はいいのに、全部参加してさえいれば最高だったなー。しかも次回からもリストラ出るんですよ。凄い複雑です…」とメッセージが入っていた。仲間には言いにくい話なのだろう。気が合うみーさんの愚痴を聞きながらその日は終わっていった。
もしよろしかったら、ご評価やご感想をよろしくお願いしますm(_ _ )m 。