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第247話 マネキン(前編)

第247話 マネキン(前編)


 単純な話、狭い世界ではレッテルを先に貼りつけた方が有利だろう。1つの性質をもってその人物を飾り付ける。例えば、何県出身なら、趣味が○○なら、○○が得意なら、××に決まっている、と過去の経験やよそで得た情報で全てを決めて、その枠に埋め込む。そうして望み通りの性質とは異なっていた場合、その違いの幅を認めず、自分の知っている性質に加工する。そうすれば、楽だ。相手が抵抗したら、それ見たことかと「おかしい」、「変わっている」と吹聴する。そうすれば、それを自分の都合よく解釈した別の誰かがまた違った加工を施す。言われたのが、何か負い目のある人間だったら、都合悪く受け取ってしまい、苦しむ。



 それはまさにマネキンのように決まった形で誰かの好む格好をさせられることで、また、マネキンのようにそれを見た誰かに勝手な解釈をさせることと似ている。マネキンが前述のことをするのは当然であるが、人間が、無関係でない人間のせいで、それをするのはどうなのだろうか。



 そう考えたのは、みーさんから頼まれごとをしたからだった。何でも少し変わった依頼で、うさん臭さがあるから、念のために私にも見に来てほしいということであった。協会の事前調査では問題なかったらしいが、何かあってからでは遅いから、それからその依頼内容も興味深かったから、一緒に行くことに決めた。



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 当日、早めの新幹線に間に合わせるのにいつもより早く起きて、朝食を食べながらニュースを見て、硬貨虫のコイン(片面に時計回りの渦巻き、もう片面に横線が数本描かれていた青紫色の)を回収して、文松駅からG駅へ向かった。


 G駅でみーさんと合流して、一緒に新幹線に乗った。平日だから車内は空いていた。隣りあわせの席に座って、みーさんが珍しく(?)タブレットで何か読んでいたのを真似して私もタブレットで読書をした。いわゆる心理学ものに近いのだろうか、○○な性格はこういう行動をとりがちという内容の本だった。多少誇張されていたのだろうが、実在の人物に割と当てはまっていた。ただ、その中の良くない性質が自分と被っているように思うとあまり良い気分ではなかった。集団から排除されたのはその性質を私が持っていたからで、相手は正常だ、と読めてしまうからだった。ドン・キホーテだ。外国の本だからお国柄があるのだろう。


 その本に目を通しつつも、もう一方で私は今回の依頼内容を思い出していた。



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 E県のE市にある老舗の百貨店は、地元の人に愛され続けているE県人なら誰もが知っているらしいデパートだ。(ただし県をまたぐと殆どが知らない。)その百貨店で、最近、困ったことがあるという。


 始めに気がついたのは婦人服売り場のスタッフだった。早番で出てきた彼女が普段通りに更衣室を出て、準備を始めようと売り場に向かうと、違和感を覚えた。そしてすぐにマネキンのポーズが前日と変わっていることに気づいた。幸い自分で動かせたから元に戻して、休憩中に同僚に、「誰かのイタズラ?」とそのことを尋ねたが、誰も心当たりがないとのことであった。


 数日後、今度は別のスタッフが発見した。それはイタズラで片付けるには度を越していて、フロア中のマネキンがそれぞれポーズを変え、移動して、服を選んでいるように見えるものもあれば、喧嘩しているように見えるもの、首が飛んで行って近くのガラスを突き破り、それを拾いに行くように見えるもの…と異常としか言えなかったそうだ。百貨店のスタッフ総出で何とか開店前には間に合わせたらしい。


 一体何があったのかと社員が監視カメラの映像を見ると、何者かが侵入した様子はなく、マネキンが勝手に動いていた。外に知られたら客が来なくなるかもしれず、現場の判断ではどうしようもないということで話がどんどん上まで上がり、社長の耳に届いたところで、社長が協会に依頼をした。


 依頼内容は妙で、その原因を取り除くというものではない。マネキンに(あるいは操っている何かに、だろうか)言い分があるのなら聞いてみたいというものだ。懐が広いと思えばこの百貨店が県民から愛されている理由も何となく分かるが、危機感が足りないと考えればこの百貨店は何かあったら一気に終わるのだろうと思う。


 私たちが来るまでは寝ずの番を交代でしているそうだ。それでマネキンは今のところ動いていない。

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