第247話 三者面談(後編)
第247話 三者面談(後編)
見覚えのある生徒会室の扉を藍風さんが開けると、中には偶然にも江崎さんと城山さんだけがいた。
「あ、真奈ちゃん。先生から―」
藍風さんが城山さんに話しかける。私も軽く会釈をして、部屋の外で待っていようと踵を返す。生徒会室から出てくる音が聞こえる。
「こんにちはっ」
江崎さんだ。
「こんにちは。お久しぶりです」
「三者面談ですよね?」
「ええ。そうです。藍風さんから聞きましたか」
「はいっ。知都世ちゃんからたくさん聞いてます。あ、今度夏休みに旅行に行こうかなって3人で話しているんですけど、上野さんもどうですか?」
実に唐突だ。そして、何故…。
「ああ、もしかして、引率ですか」
「えーと、実は、そうなんです。でも、お父さんとお母さんから大人がいないとダメだと言われて…、平日は忙しいし、休日は人が多いからダメだって言われて…」
それは多分、旅行に行かせない方便だと思う。心配しているのだろう。あるいは、もっと勉強するようにだろうか。
「まあ、ご両親がよいと言うなら大丈夫ですよ」
ダメだと思うけれども。
「ホントですか? 今度聞いてみます!」
純粋に喜んでいる江崎さんを見るとだましているようで悪い気がしてくる。
「そう言えば、あの後、七不思議に巻き込まれた夜の後はもう何もありませんか」
「あ、はい。それは大丈夫です」
「それは良かったです。私たち4人がここにいると…」
と言いかけたあたりで江崎さんの顔が、それに、藍風さんと一緒にこちらまで来ていた城山さんの顔が少し引きつった。2人とも、心臓の鼓動も速くなり、顔色は青白く、腕には鳥肌が立っている。…なんだかんだで怖かったことには変わらなかったらしい。今まで生徒会室で何かしていてもそういう気にならなかったのは、私がここに来ていなかったからだろう。悪いことをした。
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藍風さんを車で家まで送る途中、江崎さんが話していた旅行について聞いてみた。藍風さんは無理を言ってすみませんと言った後、もしよかったらお願いしてもいいですかと尋ねてきた。いいですよと答えた。もし万が一引率をすることになっても、3人の邪魔はしないように、遠くで見守っていればよいだろう。
家に帰って私服に着替え、夕飯の準備を始めることには大分涼しくなっていた。ナスが安く買えたから、それで麻婆茄子を作った。食べながら考えた。学校に行ったから、それも進路の話を聞いたから、再び、このままでよいのだろうかと考えた。何年後には老人が何割を占めて、年金や社会保険が非常に重くのしかかり、吸い尽くされる。不安定な仕事(今は安定しているが)だと、詰みかねない。将来の年金は当てにならないどころか、介護保険や何やらでどんどん搾り取られる。そんな中で子供をまともに育てる基盤を、と考えると私には厳しい。まず相手がいないのは置くとしても。土台が剥ぎ削られ、補修はわずか、上に重荷がどんどん乗る。先に倒れた方が勝ちかもしれない。
普通の仕事をするとして、結局老人がポストを退かない(ように国が勧めている)から下が上がらない。そうすると、そこのポストも空かない。だから、スタックするだろう。単純な労働力は機械に置換されるから、ますます混雑する。それで、その分手が空くのかと言えば、全くそういうことはない。機械以下の賃金で働くか、ニッチな部分を見つけるか。
良いポジションに適切な人間がつくのは当たり前のことだ。ただ、私は攻撃的な人物や排他的な人物に目を付けられやすいから、組織としては囮があった方が楽だから、多分私が組織の中で仕事をするのは難しいだろう。世界は競争だから、あらゆる手段をもって敵を潰すのは、個人としては否定できない。ただ、その手段の中で、不当なものがあれば否めるべき組織が、それをしない、ごまかしぼかしだと、敵に殺される。現に呪いをかけられて、藍風さんと会わなかったらそうだっただろう。それならいっそ、分かりやすく攻撃された方がましだ。そうすれば、血で血を洗う。一族郎党だ。私の血肉を理不尽に食い漁ってその益を得たのだから。
かつての私は分からないということとして扱うべきように加工された攻撃を受けて、その発展した始末が呪いだった。ただ、幸運にも、私にとって、その始末が先の攻撃から、分かったこととして扱ってもよいものと変化した。
寝る前にふと考えた。勿論するつもりは全くないが、同僚や上司をそうすると出世はとんとん拍子、競合先も潰せるし、やりたい放題だ。周囲がそうなっていないのはそのことを知らないのと、恐らくお偉いさんは誰か能力者によって守護されているのだろう。でなければ政治家や大企業の社長は命がいくつあっても足りない。その手の警備業に就くという食い扶持もあると思う。探せば仕事はまだありそうだ。




