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第245話 三者面談(前編)

第245話 三者面談(前編)


 年を取ると時間が流れるのが速く感じると言われているし、私もそう思う。明らかにそう感じるときと言えば、外食をするときだ。店に入って、注文をして、子供の頃は料理が出てくるまで結構な時間が経っているように思っていたが、あるとき、ここの店は料理が出るのが早い、冷凍食品を出しているのか、それともオーダーの順番を間違えられたかと思った後から、あっという間に料理が出てくるようになってしまっていた。感覚を修正したつもりでも、思ったよりも早く来ることがある。



 藍風さんから学校の三者面談に来てほしいと頼まれた。藍風さんの頼みなら特段断る理由もなく、時間もあったのだが、本当に私が行っていいのかと疑問でしかなかった。それを当人に伝えたら、担任の先生から直々に電話がかかってきて、形式上のものだから大丈夫と言われた(電話番号は入校許可証のところから引っ張ってきたのだろう)。声の感じから、何となくその担任が無理を言って話が通ったような気がした。



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 当日、家事と勉強を早めに済ませて、昼食を食べながらいったい何を話したものかと考えた。知人として話すわけだが、怪奇関連の話をしないとなると…と思い起こすと、結構様々な場所に行って色々していた、と思った。


 無論スーツを着て行ったわけだが、まず車に乗った時点で暑く、上着を脱いで助手席に畳んで置いた。文松中学校に着いて、首から入校許可証を下げて中に入ると多少は涼しかったが、廊下や階段は蒸して、ネクタイだけでも外したかった。普段から過ごしていればまだ慣れていくのだろうが。まあ、少なくとも職員室には冷房が入っているから(七不思議に巻き込まれたときに確認済み)、先生方は大丈夫なのだろう。


 その廊下で、藍風さんと会った。私が学校に来たのをどこかでたまたま見たのだろう、教室に到着する前に合流した。心なしか、服装がパリッとしているように見えた。学校にいる藍風さんが制服を着ていると、見た目よりも上に見えなくもないが、より子供っぽく見えてもくる。不思議だ。


 教室の前には椅子が幾つか並べられていて、先の順番の男子とその顔によく似た(多分)母親が双方緊張した面持ちで座っていた。私と藍風さんも座ると、遠くから吹奏楽部の練習や体育館から運動部の掛け声が聞こえてくる中で、教室の中にいる人たちの声もごく普通に漏れ聞こえてきた。私の聴力の問題ではなく、誰でも耳をそばだてれば聞こえるものだった。プライバシー云々はないのだろうかと思った。


 やがて、中から椅子を引く音がはっきりと聞こえ、隣の2人が立ち上がり、中にいた女子とその母親が出てきた。藍風さんとその女子が小さく手を振り合っていて、何となく私とその母親も軽く会釈をした。



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 藍風さんの三者面談は、滞りなく終わった。志望校は余裕、学業もそれ以外も問題はない、生徒会活動も積極的にやっている、と褒めちぎられていた。藍風さんは少し恥ずかしそうにしていた。珍しい。私が根掘り葉掘り聞き出すこともなく(当たり前だが本人に任せています、と答えて終わった)、逆に私が聞かれても答えられることは普通の家庭よりも少なく(だから担任もそれほど聞いてこなかった)、ほんの雑談で映画館や動物園に一緒に行ったと話したくらいだった。


 教室を出た後で藍風さんに「すごいですね」と言ったら「先生がオーバーに話していたんです」と返事が返ってきた。照れているように見えた。


 帰りに生徒会室に寄った。藍風さんが担任から城山さんへの伝言を預かっていたからだった。こういうときに、一人1台スマホは持っているだろうから、それで連絡すればいいのにと思う。先生→生徒間の連絡に専用のアプリなどないのだろうか。返事は選択式にしておけば、雑談に使われることもないだろう。


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