第242話 怪奇以外の仕事(前編)
第242話 怪奇以外の仕事(前編)
先日、支部に用事があって行った時に、弦間さんに会った。偶然、にしては出来過ぎな感じがしていたが、実際そうであった。私が用を済ませると、「ちょっと、いいですか?」と奥の備品庫(封印の掛けなおしをする場所でもある)に呼び出された。少し疑いつつもついていくと、ある頼みごとをされた。
その頼みごとというのは、とある人物を監視してほしいというものであった。怪奇ではなく、人間の監視である。それなら探偵や警察(?)の仕事ではないだろうかと私が考えると、それを見透かしたように、「ただの人物ではありません」と言われた。監視対象は弦間さんが所属している陰陽道のお偉いさん、S氏であった。
詳しいことは聞けなかったが、どうも裏であくどいことをやっているらしい、ということで弦間さんはその証拠集めのために内密に監視を行っている最中であった。しかし、どうしても行かなくてはならない用事ができてしまい、その間の穴埋めで、怪奇について理解があり、組織から離れた知り合いということで私が抜擢された。これを聞いて、確かにメールで済ませることができる内容でもないと思った。その間特に用事もなかったから2つへ返事で引き受けた。
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その日は朝早く起きて、朝食を食べてから風呂に入り、硬貨虫に餌をやってコイン(両面に魚らしきものの模様)を回収し、荷物を簡単にまとめて、文松駅に向かった。そこからG駅に向かった。G駅で弦間さんと合流し、彼の車で某県の少し郊外にある監視の拠点まで向かった。そこはホテルの上から2番目の階にある一室で、S氏の一軒家が上手い具合に見える位置にあった。
部屋の中には、カーテンの先を見るための望遠鏡や音を受信する(のと音の波形を表示する)ための機械とヘッドフォン、それから知らない人がいた。見たところ中年男性のようだが仕事柄だろう、無駄な贅肉がついていないのがスーツの上からでもよく分かった。身長は私と同じくらいだった。
「今戻った。彼が上野さんだ」
弦間さんがその男性に差し入れの缶コーヒーを渡した。
「こんにちは」
「彼は長谷川」
「どうも」
長谷川さんは軽く頭を下げるとまた監視に戻った。
「それじゃ、簡単に説明しておくよ。とは言っても、そんなに難しいものではないから」
弦間さんは早速、といった様子でてきぱきと機器の使い方を説明した。彼も用事が迫っていたからだった。使用法は何も難しいことはなかったが、知らない人を監視するのに初対面の人と2人きりになるのは少し気まずく、もう少し打ち解けるまでいてくれたらいいのにと思っていた。(実際は気まずくならなかった。長谷川さんが話しやすかったのと、仕事に集中していたからであろう)
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私の場合望遠鏡は不要であったから、2人でいるときは長谷川さんが望遠鏡を覗いて、私が音の波形を見ながらヘッドフォンを切り替え、適宜窓の外を見て、連携した。S氏は一人暮らしだったから音の出所が1つだけであり、音を追いかけていれば自然とどこにいるのかが分かり、楽だった。
合間合間に聞きたいことは色々とあった。S氏が何をしたのか、どうやって音声を拾っているのか、など、聞いてはならないようなこともあったが、例えば超能力的なもので監視しないのか、また、サイコメトラーの力を借りないのかといった質問は答えが返ってきた。前者は相手も専門家だから気づかれうるということであり、後者は、プライドの問題ということであった。それならばなぜ私が、と思ったが、その時にやったことは一般人でもできることだから、私が手伝ってもそのくくりに入らないのだと今は思う。
私と長谷川さんは交代で仮眠を取った。食べ物は部屋に山ほど置いてあった。ただ、その日は訪問客もおらず、誰かとの話し声も聞こえることもなく、終わった。




