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第24話 七不思議からの脱出

第24話 七不思議からの脱出


 旧校舎の七不思議の最後の一つ、『○階○番目の女子トイレの首吊り死体』はこういう内容だった。



 『昔、ある女子生徒が学校で酷いいじめにあっていたそうです。同じ女子生徒から無視されるのに始まり、物がなくなり、見えないところに暴力を振るわれ…。始めは裏でしていたことが段々とクラス内で行われるようになるも、周りの生徒どころか先生さえも黙認する始末でした。その子はおとなしく、家庭が荒れていたので相談先もなかったのでしょう、ある日、女子トイレの一室で首を吊って死んだそうです。しかし、いじめが犯罪という意識のある時代でもなく、クラスぐるみで隠蔽したこともあって表沙汰になることはありませんでした。思春期によくあるものとなってしまったということです。そのトイレは使用禁止になることもなく、これまで通り使われていたけれども、誰かの呻き声が時たま聞こえるそうです。どこかって?すみません、母から聞いたのですが母も覚えていなくて』



 「それで、古い校内新聞に書いてあったんです。4階北側のトイレは立ち入り禁止になっていたことがあるんです。理由は書いていなかったのですが、他にはなさそうだったのでほぼそうでしょう。何番目かは分かりませんでした」

 藍風さんが旧校舎の扉を開けながら言った。江崎さんと城山さんは後ろでビクビクしているようだ。


 「それなら左手の階段から行きましょうか」

 旧校舎の玄関から北側の階段へ向かう。こちらも南側の階段同様、防火扉が下ろされていた。そういえば理科室に行くときは気づかなかったが、今となっては2階の間取りからそこに階段があるとわかる。鍵束から鍵を取り出してその扉を開ける。


 こちら側の階段は全く使われていないようで、埃の堆積が酷い。転ばないように慎重に上っていく。数段目に足をかけたところでギィ、と嫌な音が下から響いた。


 (そういえば、何故上に上る用があった人は南側の階段を使っていたのだろうか。北側の方が玄関から近いはずなのに)

 先ほどは偶々道なりに進んだから南側の階段を使っただけで、帰りも何となく同じ道で帰っただけだった。この道をわざわざ使わなかった理由、それは―


 踊り場を過ぎたところで床が抜けた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 幸いにも私が1階に落ちただけで他の誰も怪我をすることはなかった。上を覗くと大きな穴が空いている。細くすらりとした足が見えてから、藍風さんの顔が現れた。焦ったような心配したような顔をしている。


 「上野さん!大丈夫ですか!怪我してませんか!」


 「はい。少し打っただけですよ。それよりこの階段は崩れそうです。早く下りてください!」


 「はい、でも今の衝撃で階段が壊れたようです。城山さんと江崎さんは下の方にいたのでそのまま下りられますが」

 先の話を聞いていたのか2人が防火扉を開いて出てきた。

 「私には飛び越えられそうにないです。なので、この穴から下ります。飛び降りたらそっちの底が抜けるかもしれないので受け止めてもらえますか」


 「上野さん大丈夫ですか?」「大丈夫ですか」

 城山さんと江崎さんがこちらまで来て怪我の有無を聞いてくれる。


 「私は大丈夫ですが、藍風さんがこの穴から下りるそうです。いつまた崩れるかわからないから台になる物を持ってくる時間も惜しい…。お2人は…背が足りないですね…」

 やむを得ない。

 「藍風さん!受け止めるのでそっと下りてきてください!」


 その声を聞いて、靴が穴から出てくる。端に引っ掛けたのか片方が落ちる。白い靴下の側面にワンポイントのリボンが見える。その足は細く滑らかで陶器のようだが、靴下と違い人の色と柔らかさを表現している。紺色のスカートがふわり、と揺れて視線を引き寄せる。あまり下から見てはならない。わずかなふくらみが揺れに変化をつける。そろそろ手が届きそうだ。私は手を伸ばし、藍風さんの腰を掴み、そっと、貴重品を扱うときのように下ろしていく。体重を後ろにかけて受け止め、足が着く高さになったところで手を離し、ストン、と下ろす。黒髪から落ち着く香りが広がる。


 「あっ。ありがとうございます」


 「いえ、それよりここを早く離れましょう」

 藍風さんが靴を拾い履きなおすのを待ってから再び玄関に戻る。城山さんと江崎さんはすでにそこで待っていた。


 「知都世ちゃん大丈夫だった?」

 江崎さんが姿を見るや否や尋ねてくる。2人とも心配そうな顔をしているが、お互いからは見えないだろう。顔を懐中電灯で照らせばホラーだ。


 「はい。上野さんが受け止めてくれました」



 それからは床が抜けないか一層の注意を払いながら被服室前まで進み、そこから4階に向かう階段を上っていった。4階は北側のみで南側は屋上となっている。だからトイレも階段もそちら側にしかない。そこはもはや誰も使っていないため、蜘蛛の巣がいたるところに張り巡らされ、廊下の隅には様々な動物の糞が散らばっている。壁は剥がれていて、屋上へ続く扉は鎖で厳重に封鎖されている。トイレは階段からすぐ右手にあった。


 「それでは行きましょう」

 藍風さんが扉を開けて中に入る。女子トイレに入ってよいものか悩んだが、藍風さんが正体を秘密にしている以上私がやっている体がいるだろうか。


 「上野さんも来てくれませんか」

 そう言われてようやく決意をする。江崎さんと城山さんには入り口近くで待っているように伝えて中に入る。ごく一般的な(多分)トイレで個室が3つ並んでいる。掃除用具は入り口近くにまとめておかれていたようで、フックがいくつか残っている。鏡は取り除かれており、その枠の跡が周りの壁紙と異なる色をしている。そして、2番目のトイレに女子生徒はぶら下がっていた。呻き声はしないがいつ動き出すかわからないだろう。


 「藍風さん、この七不思議はどうするのですか」

 私は片手を口の横に当てて小声で尋ねる。


 「はい、これはこうします」

 藍風さんは1番目のトイレに入ると2番目のトイレ側の壁を7回ノックした。トイレから出てくると首を吊った女子生徒はそこにはおらず、先ほどまでなかった黒電話が転がっていた。


 「これで終わりです」

 その黒電話に札を貼って、藍風さんは立ち上がり、膝のあたりをはたいた。あっさりとしているが叩く位置やタイミングが重要なのだろうか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 女子トイレから出て、先ほどの道を逆に戻って玄関から外に出た。4人で旧校舎から新校舎に向かい、生徒会室の荷物を回収した。しかし何も起こらない。


 (そういえば閉じ込められた時は車で来たか)


 「車に戻ってみましょう。来たときは車に乗っていましたので何かあるのかもしれません」


 「わかりました」

 皆元気がなくなっていた。何でもいいから脱出に繋がるかもしれないことをやってみようと思った。


 全員が乗ったところでエンジンをかけ、校門の方へ向かう。激しい雨のせいで今まではたどり着かなかった門が見えたと同時にポケットに入れていた鍵束が消えた。やっと、怪奇から脱出することができた。向こうのものは向こうに置いていかれるようだった。


 脱出の喜びを全員で共有しながら、(城山さんと江崎さんは泣きながら後部座席で抱き合っていた、)そういえば色々と解決していない事もあったようだと考えつつも後にしようと思った。疲れた。スマホの時計は藍風さんたちを通りで見かけたときからそう進んでいなかったが、どれくらい向こうにいたのか。その間、食べても寝てもいなかったわけだからもういいだろう。


 それから3人を自宅まで送った。途中で城山さんが真っ赤な顔をしていることに気づいた。江崎さんと藍風さんは家に着くまで眠っていた。ようやく自宅に帰ったがもう何もする気が起きない。これが精一杯だ。明日は筋肉痛だろう。

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