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第23話 旧校舎の七不思議(後編)

第23話 旧校舎の七不思議(後編)


 非常に気まずい空気が流れていたが、現状は時間だけが解決してくれるわけではなかった。しばらく立って落ち着いたのか、無言の時間を破ったのは城山さんだった。


 「あの、お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません」

 目は赤く充血しており、声は小さい。涙で汚れてしまったのか、マスクは新しいものに交換したようだ。


 「私は気にしていないから、城山さんも気にしないでください」

 ようやく話ができるようになったところで説明する。

 「城山さんは中に残って私が出たら鍵をかけてください。ここは安全なようですから合図をするまで開けないようにしてください」


 「えっ、あの、一人でですか?」


 「そうですね。私は先にあの教員を対処するつもりです」


 「そうですよね…。あの、気を付けてください。できれば、早く戻ってきてください」

 相当一人きりでいるのが怖い様だ。何が起こるかわからない以上一人きりにさせるのはリスクを伴うが、今は男の先生の方が危険だと思う。私は礼を言うと慎重に扉を開けた。廊下の埃は散らされていて足跡もよくわからない。どこに行ったのか。後ろで鍵がかかる音がする。

 職員室の様子を伺ってみるが何もいないようだ。ということは廊下を徘徊しているのか。廊下を上ってきた階段と逆方向に進む。水飲み場の蛇口は針金で固定されている。バケツやモップが廊下に散らばっている。その先には多目的教室と書かれたプレートがある。足跡はさらに先には行っていない。ここで消えたのか、ここで潜んでいるのか。多目的教室に耳を近づけると、何かがぶつかるような物音がしていた。いる。


 落ちていたモップを拾い、扉を勢いよく開ける。男の先生はすぐにこちらに気づき、バットを振りかぶって近づいてきた。その喉目掛けてモップを突き刺す。


 バキリ、


 モップは相手に届かないうちにバットで折られてしまった。モップの耐久性が低くなっていたこともあるだろうが、そもそも私は武闘派ではないのだった。益々近づいてきたそれに何か手はないものかと、とりあえず近場の椅子を放り投げる。当たったがダメージはなさそうだ。眼前に迫ったその恨みのこもった表情に寒気がする。バットが頭上に迫る―。

 私は振りかぶられたバットを何とか寸でで避けて、それの右脚を思いっきり踏み抜いた。右脚は面白いくらい不自然な方向に曲がり、男の先生はその場に倒れた。急いで距離をとって近場の机を構えるが、どうやらまともに動けなくなったらしく床を這いながら動いていた。弱点を狙うのは定石だ。その頭に洗剤をかけるとなぜか動かなくなった。それから壁に白いチョークで数字の羅列を書くと男の先生は影も形もなくなっていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 保健室に戻ってから城山さんは心細かったのか先ほどよりも距離が近くなっているように感じた。アルコールの匂いがする。


 「城山さん、次はどこが近くですか」


 「2-4が2階の北側にあったはずです。私も行っていいですよね?」


 「はい。一人でいるのも危ないかもしれないですからね」


 「よかった…。ありがとうございます」

 お礼を言われるようなことをしたつもりはないが、ともかく廊下を再び北側に進み多目的教室、トイレと階段の横を抜けて2-4の前まで来た。『2年4組の壁に埋まっている骸骨』はこういう内容だった。



 『旧校舎の2年4組の壁には骸骨が埋まっているそうです。校舎を建てたときに途中で一人行方不明になったんです。その人は適当な性格だったから仕事がいやになって逃げだしたのだろうと思われて探されもしなかったのですけれども、ある日、壁から布がはみ出していたんです。よく見るとそれは男の服の一部でした。工事を止めてしまえばこれからの仕事に影響が出る、そう判断したトップは布を切って壁紙を張ってしまったそうです。それから壁に埋められた男は骸骨となり、教室で遊ぶのに夜中に仲間を増やそうとしているそうです』



 2-4は他のところよりも古く、褪せて見えた。しかし壁紙だけが他のところよりも丁寧に貼られていた。この辺りはもう人が入らないようで、蜘蛛の巣は至るところに張られていて突き当りの部屋の扉は倒れ、ガラスが割れている。どこかから侵入して死んだのか、動物の死体の匂いがする。そんな中で集中すると骸骨の姿が教壇の上に立っているのが見えた。どうやらこちら側にいないからか、こちら側に気づいていないようだ。今のうちに終わらせよう。私はペットボトルからコップに水を移し、そこに欠けた消しゴムと電池を入れると、その水をこぼした。骸骨の姿は見えなくなっていた。あっけないものだ。


 「城山さん、ここは終わりました」


 「え、あ、あの、今ので何が起こったんですか?」


 「まあ何とか終わったんですよ」

 どう言ったものかと考えていると、不意に壁紙がはがれ何かがわずかにはみ出しているのが見えた。興味本位で引っ張ってみる。老朽化していたからだろう、壁がぼろぼろと崩れ、作業服姿のミイラが飛び出してきた。


 「キャアッ!」

 城山さんが尻もちをついてミイラから避けようとした。まあ、骸骨にはならないだろう。腐っていなかったのが奇跡だったのだと思う。それにしても、この厚さの壁によく入っていたものだ。その衝撃で城山さんは何を聞こうとしたか忘れたようだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「このミイラは七不思議の骸骨なのでしょうか?」

 城山さんがミイラを簡単に葬り弔っているときに聞いてきた。少し考える。


 「このミイラが七不思議の話のもとになっているのだと思います。昔の校内新聞にも噂としてですが書かれてはいました。旧校舎の七不思議は、多分、全て事実から来ているのでしょう」

 つまり、動物虐待をして何故か焼死した男子生徒、流産で自殺した女教師、顧問のパワハラで自殺した男子バスケ部員、不倫されて不倫相手に殴り殺された男教師は存在していたのだろう。そして、次の目的地のにも。


 「それで、次の被服室はどこにあるかわかりますか」


 「被服室はそこの階段を上ってすぐ隣にあったと思います」


 「それなら少し休んでから行きますか」

 時間は進んでいないとは言っても、体感時間は進んでいるので疲れている。私もだし城山さんもそうだろう。『被服室にいるばらばらの女の子』はこんな内容だった。



 『昔、この学校でお姉ちゃんを迎えに来ていた女の子が目を離した隙にいなくなったことがあったそうです。警察も総出で探してもその日は見つからなかったんですけれども、翌朝、旧校舎の被服室でバラバラになった姿が見つけられてしまったんです。犯人はこの学校の家庭科の先生だとか、異常者の生徒だとかいろいろ言われたけれども捕まりませんでした。それから、そのばらばらになった少女が被服室で自分で自分をつなぎ合わせようとしているようになったそうです。でも、子供だから上手にできないんですね。だから、お手本を見つけて自分をちゃんと組み立てようとしているんです』



 階段を上ってすぐ右手に被服室はあった。その看板が見えるや否や、部屋からガタガタと物音が聞こえ始めた。こちらが近くに来たことに気づいたようだ。いきなり襲ってこないのは隠れてでもいるつもりなのか。後ろを歩いていた城山さんに懐中電灯を消してもらい、ゆっくりと扉に近づく。女の子は気づいていないようだ。3階は埃の他にも廊下に点々と蝙蝠の糞らしきものが落ちていて、奥には使わなくなった机やロッカーが無秩序においてある。壁紙は剥げて、中が見えているが、それもぼろぼろと崩れている。早く立ち去りたい。


 城山さんに扉の近くに立ち手鏡を持って貰い、慎重に反対側の扉を越える。危険は承知だ。城山さんは青白い顔で、しかし、しっかりと手鏡をこちら側に構えている。それからポケットに入れておいた磁石を反対側の扉に当たるように投げた。コツン、と音がして、中からその出所に近づくような音がし始めた。もし、扉を出たときに向こうに向かわれたら…。女の子が扉を開けたと同時に、私は女の子目掛けて皿を投げつけた。皿の軌道が鏡に映ったとき、女の子の動きが止まって倒れた。

 その姿は、一つ一つは人間のものだろうが、まず目の高さが違うし、両手の指は位置がばらばらだ。両脚は逆で、腹部が膨満している所を見るに、内臓も適当に詰め込まれているようだ。目を合わせないように札を貼るとやがてその姿は消えていった。


 「城山さん、終わりました」


 「あ、はい。今のがあの女の子は、なんだかかわいそうでした…」

 城山さんは鏡を下ろしてほっとした様子で、それでも寂しそうに言った。どうも答えることができなかった。あれは七不思議で、噂が本当でも女の子と本質は異なるだろうためだ。そう思う気持ちも分からなくはなかった。


 「一旦戻りましょうか」

 私達は無言で来た道を戻った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 新校舎の入口まで来ると、藍風さんと江崎さんに出会った。どうやら女子トイレの首吊り死体の七不思議について何かわかったようだ。


 「お疲れ様です。残りは女子トイレの首吊り死体だけですか」

 藍風さんがこちらを見て尋ねてきた。その手を江崎さんがしっかりと握っていたが、こちらに気づくとその手を離した。


 「そうですね。何かわかりましたか」


 「はい。こんな記事がありました」

 そういって藍風さんは古い校内新聞とメモを渡した。目の端で江崎さんと城山さんがお互いの無事を確認している様だ。


 「江崎さんと城山さんは疲れたでしょうから私も行きます」

 そういって藍風さんは私のそばに近づいた。江崎さんと城山さんを生徒会室に置いておくのも何が起こるかわからないので来てもらった方が良いのだが、この調子で動いてくれるだろうか。そう心配していたが、あと一つで終わるからか、意外にもついて来ると言った。私達は4人で旧校舎に向かった。

 


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