第228話 ゴーストタウン(中編)
第228話 ゴーストタウン(中編)
道中の運転はアメリカ基準でも大分飛ばしていて、何台もの車を追い抜いていった。そのおかげでゴーストタウンには日が暮れる前に到着した。そこは、湿地帯にあるせいでジメジメと冷たく、舗装されていない地面は所々ぬかるんでおり、約100世帯の住宅と、最低限の施設の壁には黒いしみが斑に広がっていて、カビと淀んだ水の臭いがあって、静かだった。
まずは一休み、となることはなく(夕食は車内で食べていた)、とにかく暗くなる前に準備をして回ることになった。そうは言っても、アフマドとルーシーは地図を持ってどこかに行ってしまって、残ったメンバーで予め決められた地点にジェラルドの観測機器を並べて、何とか完全に暗くなる前に終わらせた。2人も決してサボっていたわけではなく、目下の安全を確保しに行ったそうだった。
私たちは夜通し歩いて件の悪霊の手がかりを探すことになった。車を町の中央に停めて、そこを拠点にジェラルドとアフマド(ジェラルドが指名した)が各地点の観測をして、そこから北を前半に、南を後半に回るとにした。ルーカスは小型カメラと計測機器を持ち運ぶよう頼まれていた。「何かあったら捨ててもいいよ」と言われていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日が落ちて、出発すると早速幽霊(と他の人が言っていた)に出会った。人型を保っておらず、灰色の固まったもやであった。あまり良くないモノだということで、ルーシーが杖の先から光の球を出して吹き飛ばした。一振りで飛んでいった。球は、近くにいて熱かったから、何かが燃えていたのだろう。
それから西へ向かい、住宅が途切れて雑草が生い茂った場所が近くなってから右折し、角まで行った。闇の中を夜目の利く私とルーシー(何かの魔術か魔道具だと思う。教えてもらえなかったのはそれを取られたらピンチになるからだろう)が先頭となって、その後ろにヘッドライトを点けたルーカスとJJが続き、慎重に進んでいった。月も星も見えない曇り空の下で、ライトの光とジェラルドの機械のランプ、遠くの拠点から漏れる微かな電気がその死んだ町を辛うじて照らしていた。
「じゃあ、やりますか」
JJの号令のもと、4人でまず入るのは目の前にある家だ。この家は鍵がかかっていない。夫婦が住んでいて、当時のものがそのまま残されている。持ち出すと呪われて、窓ガラスが何かで割れていて…。先に調べてあった報告書にあったことだ。
JJが扉を開ける。湿度が高いからだ、家の中はかび臭い。ここまでとは思っていなかった。マスクを着けるようにジェスチャーで伝えて、自分も着ける。結構な高級品らしく、呼吸が若干苦しいがそれでも臭いは相当抑えられる。3人もしぶしぶと言った顔つきで着けた。
家の中は何と言うか、昔のアメリカの家はこうだったのかという感想だ。今のとそう変わらないように見える。汚い。
「床、思っている以上に腐っています。気を付けてください」
私の言葉を受けてルーカスが持っていた棒で足元を叩きながら歩いていく。ルーシーはその場で何か探している。JJは私を後ろに連れてルーカスと逆順に歩いている。
(例の怪奇が出現するようなスポットは…どこだろうか)
何かしらの出入り口があると思う。その表現が合っているのか不明だが。何か特殊なものがあるのか、何か偶然にもそういう場所ができてしまったのか…、今までも何度か調べられているのに見つからないのだから、あまり目立たない、それでも他の場所とは異なる何かが…。目立つ場所でも条件が揃わなかっただけかもしれない。
「何かあった?」
「何も」
JJとルーカスが簡単に確認しあう。
「出よう」
意外にあっけなく終わった。もっと細かく見るものと思っていたが、2人、ルーシーも入れれば3人には十分だったらしい。前に続いて私も外に出る。
マスクを外すと新鮮な冷えた空気が鼻を通っていくのが分かった。隣の家に向かう途中にははっきりした子供の幽霊がいたが、我々の姿を見ると逃げていった。1軒目に入るまでは始めに見つけたモノだけだったから、いよいよ現れ始めたという感じがした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その調子で家を1軒1軒虱潰しに見ていったのだが、小物の怪奇はその辺にたくさんいるのに、例の悪霊に限らず幽霊らしいモノはあまり見かけなかった。さらに、1体を除いてこちらの姿を見ると逃げていった(その1体はJJの銃で打ち抜かれて消えた)。




