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第226話 他チームの仕事2

第226話 他チームの仕事2


 アメリカ生活も慣れたと思っていたが、モールで近道をしようとふらっと入った所がどうやら立ち入り禁止だったらしく、ごつい、私の足と同じくらいの太さもある腕の黒人にガミガミと怒られた。小さい字で英語が書いてあると脳が無意識のうちに文字ではなくて背景ととらえるようだ。確かに書いてあった。注意散漫だった。こういう時謝ると訴訟がどうこうになるのだろうかと考えたが、日本人柄謝るべきと謝って、日本人で英語が分からなかったと言ったら、そこから10分くらい日本のどこから、日本食の何が好き、格ゲーの何々を知っているかなどなど…。帰りに休憩所?に寄らされてクッキーを1箱貰った。いい人だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 昼食の後、部屋のベランダ(ちょうど良い日陰になる)で本を読みながらアイスコーヒーを飲んでいたら、空を大きな布のような怪奇が飛んでいった。多分10m四方はあった。下のプールで遊んでいた他の能力者たちもざわついていたが、どうも危険なものではなさそうだったので特に気にせずに続きを読んだ。


 夜、またちょっとしたパーティーに誘われてプールサイドに行った。よく思うが、20時ころでもまだ明るく、この時も昼間から酒を飲んでいるような不思議な感覚だった。つまみの鶏肉とサラダをもらって、ビールを1本持って、いくつかに分かれているグループのどこに行こうかと考えていると、バンクから手招きをされた。


 「やあ、いつ戻った?」

 バンクはそこそこ酒が入っているようで、大変機嫌がよいようだ。


 「一昨日。バンクはいつですか」

 私も早速ビールを飲んで、合わせる。美味しい。


 「僕たちは2日目。怪奇がすぐに出てきたからね」

 バンクは、私がビールを飲んだからだろうか、またビールを飲んだ。


 「それで、どうでしたか」


 「みんな紙一重で死にかけたよ」

 バンクは笑いながら言っているが、私は背筋がゾクりと、持っている熱が冷めたのを感じた。油断したら死ぬ。そのことを常々意識していないといけない。前回も自分は違うが、屋根裏部屋に行った2人は死にかけた。

 「ほら、マリンディがその話をするよ」

 視線の先を見る前にビールを飲んで、それからそちらを向くとエスワティニ出身の流暢な英語で話が始まった。


 「夜、僕たちはA地区の森林まで行ったところまで話したっけ。普通ならさ、この前みたいに2人1組で散策すると思ったんだけれど、JJが一塊で動こうって。森の中は冷えて、曇っていて、足元も悪いし、要するに整備されていなかったんだ。そこをみんなライトを持って、無言のままゆっくりを歩いたんだ」


 マリンディが一息ついた合間に食べ物を口に放り込んで、ビールを入れる。少しでもエネルギーを得てから聞いたほうがよさそうな気がする。

 「20分くらいかな―」


 「1時間は歩いたよ」

 JJが訂正した。


 「ああ、それくらいかな、何しろ僕の時計は壊れていたんだ」


 「このやり取りも分かってやっているんだ」

 バンクが小声で私に説明した。


 「そうして、風向きが変わった時に、血と臓物の臭いがしたんだ。みんな気がついた。空気が張り詰めたよ。全方向を警戒しながらさ、みんなでゆっくり、その臭いのする方に近づいていったんだ。一歩ずつ進むのに合わせて、臭いが新鮮で、濃くなって、その時点でもう数人分だと分かった」

 「辺りは闇。物音が怪奇の音に聞こえてくる。自分の育った土地じゃないから何も勝手が分からない。焦った。JJ以外はね」


 「私だって同じよ」


 「気配はするんだ。むしろそれに包まれている感じ。いるのは分かるのに、方向が分からない。みんなそこから一歩も動けない。動いた方向から来る」

 他の面々は酒の肴程度に聞いているようにみえる。経験の差が見えてしまう。

 「そして、突然バンクが『上だ!』って叫んで、見上げたら、いた。人喰い鹿が。蹄で木に登るとは思っていなかったね。それが飛び降りてきて、皆が避けて、無我夢中でさ、止めはルーシーの魔術で弱らせたところに僕の槍さ」

 マリンディは満足してビールを飲みだした。あっという間に話が終わった。むしろその戦いの部分を聞きたかったが、当人たちは必死で憶えていないなら仕方ない。


 「あの鹿、5mはあったよ。死体は残っているので30人分」

 バンクがさらっと補足して、ビールのお代わりを勧めてきた。折角だから1本貰った。紅葉鍋何人分…とほんの一瞬だけ頭に浮かんだが、禁忌だ。

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