第221話 地下洞窟(中編)
第221話 地下洞窟(中編)
周りが立ち止まり何かをするのに合わせて、私は壁に耳を当ててそこを叩き空洞がないかを調べ、遠くからの音に耳を澄ませ、怪奇の臭いを探した。どうにも役に立っていないような気がしながらも、それでもできることをやるだけだった。あれなら一人で入った方がましだっただろう。藍風さんやいつもの人たちと行動するのがどれだけ楽だったのかよく分かる。
アンドリューはわずかに存在していた精霊(と彼が呼んでいた淡く光った球状のモノ)とテレパシー?を交わしていた。返事は「分からない」だったそうだ。私も真似してみたが全く意思の疎通は図れなかった。そもそも集中してようやく見えたくらいだ。
ロイは地図を見ながら振り子でダウジングをして、印をつけていた。ルーカスは何かを探しているようだった。しかし何を、と言われるとよく分からなかったし、聞くタイミングを逃した。クロミドロは司祭の恰好に着替えて、辺りに手をかざして何かを感じ取っているようだった。結局、私を除く全員は皆、その洞窟の一大スポットである滝に何かがあると見つけ出していた。
滝は10m以上はあるだろうか、その近くだけ空洞が高く広がり、細く、しかし勢いのある水の流れが柵の奥にある小さな池に向かっていた。それを斜め下から照れされたライトが緑や紫、桃色に染めていた(こういうのはアメリカらしいと思う。日本ならそのままの状態を楽しむだろう)。池にも、岸壁にも、不思議なことに生物らしいものは見当たらなかった。怪奇も集中して確認したが、それらしいモノはいなかった。それらしい、というのがまた難しく、怪奇の姿と性質は一致しないことが多い。まあ、他のメンバーもいないと言っていたから別物だったのだろう。
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洞窟内を一周してエレベーターで地上に出ると、ニックがコーヒーを淹れて待っていた。そこの近くで地図を広げながら、例の怪奇の正体について話した。ルーカスとロイは幽霊の仕業だという意見だった。複数の幽霊が入れ替わりであの滝を目指して、そこから天に昇っていくと言っていた。クロミドロは宗教柄否定的だった。妖怪が人間に化けて悪戯をしているに違いないと話していた。アンドリューも同意見だった。妖怪ではなく精霊という立場だったが。違いは分からない。
私はどちらかと言えば後者に賛成だった。幽霊なら生気のない存在だから、監視カメラや目視でも気がつくのではないだろうが。そう考えていた。向こう側に行っているモノはどうやっても感知できない。
話し合った結果、翌日から営業時間中に、要はその怪奇が現れる(であろう)ときに、エレベーターの前と滝の前で監視をすることとなった。調べるべき場所が絞られただけでも収穫だっただろう。ホテルに戻ってからすぐに風呂に入り、短時間の睡眠をとった。
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翌朝、朝食を少し多めに食べて(いつもと違うものばかりだったからだ。味はそう変わらない)、ロイと一緒にフードコートの席からエレベーター前を観察した。従業員が退屈そうに案内をしている後ろで、冷めたコーヒーを時々口にしながら見ていた。ロイも仕事中だからだろう、あまり話をしなかった。右手から垂れている振り子がたまに変に動いて、その度にロイは私の顔を見て、外れだったかとまた目をそらした。
滝を監視しに行った3人は椅子に座っていたとはいえ、飲食禁止の薄暗い空間に居続けるわけだから、大変そうだった。1人ずつ地上に上がって休憩していた。アンドリューが私たちを見て「うらやましい」と言っていたが、「休憩はないよ」と返事をしたら五分五分だと言わんばかりの顔をして外の空気を吸いに行った。
昼食のときもその場から動かなかった。ハンバーガーを食べた。これは結構おいしかった。パンと具材に良いものを使っていたのだろう。3人も交代でやって来て一緒にテーブルを囲んだ。
座り疲れてからは意味もなく立って、それで変に注目を集めてそこの評判を落としたらまた厄介なことになるから、お手洗いや何かの説明文を読みに行く振りをして、飲み物を頼んで、また座って、それを2人で繰り返していた。下がどうだったのか分からないが、休みの時に寝そべることができる点では楽だっただろう。
一番大変だったのはニックに違いない。彼は私たちと離れた席で私たちと同じことをして、定期的に下に降りて、休んでいる時間はなかったように見えた。それでも一番元気そうだった。




