第219話 他チームの仕事1
第219話 他チームの仕事1
することがない。ホテルが妙に僻地にあって、市街や駅に行くには車が必須だ。バンで行ける場所は限られている。Ub○rかタクシーで行くこともできるが、金がかかる。折角の機会だから出し惜しみせずにアメリカ(とそこの怪奇)を見るべきだが、やはり。
朝食のメニューはそう変わり映えせず、大体食べるものが決まってきた。一通り口にして気に入ったものを選んでいる。品揃えは悪くない。一月も滞在する方が稀だろう。一応、ホテル側も気を遣ってか、この間はクッキーをもらった。30名以上が1ヶ月ほど滞在するから(さらに実際は部屋を使っていない場合があるから)、優良な客なのだと思う。
この日も朝食を食べて、部屋に戻って硬貨虫に餌のクリップをやり、テレビを流しながらPCで協会のHPをチェックした。例によって良さそうなものはなかった。気にしないことにして、その後、朝日が差しているベランダで本を読んで時間を過ごした。昼食はてりやき味のカップラーメンにした。日本の物とはまた違った美味しさがある。
それから、近くの公園までバンで行った。何を見ても面白かったが、特に巨大なムカデが人間の視線を窺うようにゆっくりと脚を動かしては止まり、また動かす堂々とした振る舞いがさまになっていてよかった。ただ、小型のサルのような怪奇がそれを捕まえて木の上に行ったが。食べられただろう。
併設の美術館に入るか入らないか迷ったが、折角だからと入った。芸術の何たるかは分からないし、何というタイトルの絵があるのかあまり覚えていないし、長くて小さな字の説明文を読む気にもならなかったのだが、美術館から出た後は何だか高尚な気分になって、大分満足した。ある絵には普通の人には分からないが、怪奇の何かが絵の具として使われていた。普通の人の目で見ても光と黒の使い方が綺麗だったが、集中するとそこに鮮やかな深い赤が差していて、意図したのかどうか知らないが、幻想的だった。
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夜、知らないうちに戻っていた他のメンバーたちがプールサイドで小さなパーティーをしていた。それに誘われて、一緒にビールを楽しんだ。ふらふらと花壇の辺りを歩いていたら、同じくビールを片手に持った日系3世のブラジル人、ユウスケと出会った。
「誘ってくれてありがとう、ユウスケ」
「いいよ、そっちは早く終わったんだって?聞いたよ」
ビールを飲みながら、それとなく目で話を聞いてほしいと言っている。
「君たちは、どういったモノに対応したんですか。まだ聞いていないんですよ」
私がそう言うと水を得た魚のようにユウスケは反応した。弾みでビールが少しこぼれた。
「聞いてくれよ、僕たちは毛皮マスを探していたんだ」
やれやれと言った顔をしているのはわざとだろう。
「毛皮マス、ですか。あの鱗の替わりに白い毛の生えた…」
魚には詳しくないが、どうにもいない気がする。
「そうそれ。小さな川だったんだけれども、ボートで釣りをして、岸を歩き回って、今日はサルバドールが泳いで探したよ」
ユウスケの視線を追うと、サルバドールが人に囲まれているのが見えた。そのときの話をしているようだ。
「それで、見つかりましたか」
分かっているが。
「いなかったよ。ねえ、エクソシストに何を求めていたと思う?」
ユウスケの言うことはもっともだ。実力を発揮する機会がなかったわけだ。ランダムにグループ分けするにしてもランダムすぎる。それも何か意図があるだろうが、分からない。後々聞いたのだが、他のチームが対応したものはユウスケたちのものよりはずっとましだったと思う。
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部屋に戻って、ふと、酔い覚ましにみそ汁でも飲もうかと思ったが、あるわけがなかった。酔っていた。コンビニ、と思ったところで、それも近場にはなかった。その辺りは不便だ。
風呂に入った後、頭を乾かしながら考えた。次の仕事は何になるのか、危険かどうか、そして(基準は分からないが)最後のメンバーに選ばれたら何があるのか。選ばれない方が確率は高そうだ。その場合に備えて1週間程度、どこに観光に行くか決めておこう。




