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第218話 隠し玉

第218話 隠し玉


 後始末を終えた私たちはジェラルドの機械が置かれていた部屋に戻って、撤収を始めた。もう幽霊がいないからか、早く帰りたいからか、それとも多少協力したことで連帯感が生まれたのか、分からないがともかく全員が機材の運搬を行った。


 ジェラルドが使ったナイフは、1度きりの隠し玉であった。彼自身はそう強い力があるわけでもないらしい。それを使ってでも幽霊に対峙した判断は流石だと思ったが、それはつまり私には無理だと判断されたことと同義であった。申し訳なく思った。ナイフ(にかけられていた術)は高価な物であった。本人は気にしていないと言ってくれたが。


 隠し玉と言えば、ハッサーンの自分が呪文を唱えている声を念のために持っていたのもそうだった。あれが彼とカミラの周りを守っていた。しかし、かなり高品質なものを使っていた(そうでないと効果が薄れるという)のと、他の人がアラビア語を全く分からなかったから、あのような状態になったのだろう。ちなみに、しばらく使えないそうだ。誰かや何かに知られたら、今度はそれを狙ってから攻撃されたら危険だからだ。


 2人とも隠し玉を惜しみもせず使った。そうしてまでお互いを守ろうとする程度の親しさを私たちは共有していた。同じ怪奇に対応したことで一層深くなったかもしれない。しかし、予め隠し玉の存在を知らせるほど信頼し合っているわけではなかった。そうした微妙な関係だった。



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 帰りの車の中でビルとイーサンが話していたことだが、恐らくあの子供の幽霊は生前から霊能力を(多分潜在的に)持っており、死後、自分を殺した殺人犯(逮捕時に射殺された)の魂をあの家に閉じ込めて、復讐していたらしい。この日はオーブンで焼かれたような苦しみを、実際にオーブンの中に閉じ込めることで与えていたのだろう。


 ホテルには明け方に着いた。一旦シャワーを浴びて、眠気と汚れを落としてから朝食のバイキングを食べに行った。イーサンを見かけたので一緒に食べた。他の人たちは寝ることにしたのか、後から来たのかだろう。別のグループに分けられた面々の姿もなかった、私たちが真っ先に終わらせていた。



 仮眠を済ませた後は特にすることはなかった。せっかくアメリカに来たのだから、どこかに出かけようかと思って、乗り合いのバンで近くのいわゆる大型商業施設に行った。どこを見ても面白かったが、特に何でもありそうな工具店が時間を潰すのに最適だった。巨大なよく分からない工具が並んでいて、使い方を考えるだけで楽しかった。外には砂で作られた精巧な城が展示されていた。そこに手のひら大の妖精がやって来て、腰掛けて、塔の1つが崩れて、驚いた飛び去っていったその姿に和んだ。椅子に座っていた作者らしき人も何事かと驚いていた。帰りにもう一度見に行ったらあっという間に補修が終わっていた。



 夜、何人かと一緒にメキシコ料理のバーに行って、そこでビールとタコスとピザのような料理を楽しみながら話をした。それぞれの国の話になったときに、相手の国についてもっと知っていればと後悔した。なまじ日本は知られているだけに、相手の国について語れないのは失礼だった。なんとかごまかして、その場を乗り切ると、タイミングよく話題が家族のことに変わった。この店はメキシコ料理店なのに、アメリカの曲も流していて、よく分からないが頭に残って、ずっとカリフォルニアにいる気分だ。



 寝る前にテレビを見ていると(日本ではあまり見ないのに。物珍しいからだと思う)、藍風さんから連絡があった。向こうの時間は昼頃なのに学校はどうしたのだろうかと思いながらそれを見た。こちらでの生活はどうか、体調はどうかと言ったものだった。元気にやっている、藍風さんはどうかと返信すると、元気ですと返ってきた。テスト明けで午後から休みだから、夜、みーさんとツァップさんと、それから桾崎さんと家でパーティーをするとも書かれていた。どのような話をするのだろうかと想像してみたが、これ、というものは思い浮かばなかった。



 ホームシックにはなっていないと思うが、距離があるいうだけで、日本にいる知り合いがもう懐かしくなってくる。始終一緒にいるわけでもないのに、不思議だ。あるいは、これもホームシックの一類なのだろうか。

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