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第216話 アックス(中編)

第216話 アックス(中編)


 私たちは夜まで交代でモニターを見たり、屋根裏部屋へ2人一組となって探索をしたり、他の場所をうろついたりした。することがなかったからだろう、普段はやらなそうなことを皆、他の人の真似をしながら学んでいた。


 私は周りから幽霊を見つけたかと度々尋ねられた。その度に、いないと答えると少しがっかりしたような顔をされた。ただ、台所のオーブンに何かいるかもしれないと言っておいた。ふわふわと漂う綿毛のような怪奇がそこを避けたように見えたからだった。


 夕食はビルが買ってきたピザだった。やたらと大きかったが、味は申し分のないものだった。(ハッサーンは別のパンを食べていた。)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 外が暗くなってから一度家の外に出てイーサンと近くを回ったが、そのときに改めて暗闇が怖いということを再認識した。私には昼間のように見えてはいたが、何分日本と勝手が違うから、危ない人は勿論、毒を持った虫や猛獣がどこにいるのかも、何が危険なのかも分からず、イーサンの半歩後ろを歩いた。知らないうちに何かルール違反を犯して、訛りのきつい早口でまくしたてられて、銃で撃たれるのではないかと無意味に不安になっていた。



 翌日を迎えた頃、幽霊は現れず、それぞれがコーヒーを飲んだりスマホでニュースを見たりと交代で休憩体制をとっていた。分かる人たちは「出そうな雰囲気はする」という意見だった。私も気配は感じずとも、大人数が上がりこんで部屋の隅々まで歩き回っていたのだから、怒って出てくるのではないかと考えていた。


 しかし、幽霊は現れないまま朝を迎えた。ほっとすると同時にまだホテルに戻れないのかと少し落胆した。朝食はハンバーガーだった。どこで食べても同じ味だ。その後、見張りを残してソファや床に敷いた毛布の上で仮眠を取った。



 ふと、物音を感じて目を覚ますと、予定していた起床時間よりも早かった。ジェラルドの計器に反応があって、それと同じモノを感じた他の面々が起き出した音だった。私も覗きこむと、屋根裏部屋のクローゼットとオーブンの近くだけ、少しだけ温度が低くなっていて、磁気センサーの針が揺れていたのが見えた。


 「これとこれだよ。出てきたね」

 ジェラルドが指を指して他の人に説明した。

 「もう…、30分後くらいかな?」


 (予測までできるのか…)

 機械でデータをとっていると、その結果を見ただけで分かるようになるのか。計算式か何かがあるのだろうが、咄嗟に直感で分かるのは経験によるのだろう。私には当然、分からない。


 「本当? なら準備しないと。僕とカミラは屋根裏部屋でいい?」

 ハッサーンが天井に目を向けながら提案した。


 「いいわよ」

 「いいよ。なら、私とウエノは台所だね」

 イーサンは聖水の入った瓶を持つと、私にジェスチャーで行こう、と伝えた。


 カミラとハッサーンが階段を上がっていく音が聞こえる。私とイーサンも台所へ行って、待つ。私ができることは札を使って攻撃するか、物理攻撃か、幽霊瓶を使うかだ。何かしようとオーブンの方を覗くと、イーサンに腕を掴まれた。


 「ウエノ、私がやるよ。君はバックアップを頼む」

 本職としてのプライドがあるようだ。私が茶々を入れない方が上手くいくだろう。


 「分かりました」

 イーサンの後方に移動する。楽をできると考えるか、自分のアピールができないと考えるか、ともかく幽霊を祓って、この件を片付けて、安全に帰ることが大事だ。


 時計を見る。まだ30分経っていない。ジェラルドとビルはモニターにつきっきりだが、何も指示は来ない。イーサンは神経を研ぎ澄ましているようだ。上から物音はしないが、集中すると、心音と呼吸音は正常に聞こえる。


 急に、上から物音がした。子供の幽霊が現れて、2人が対応し始めたようだ。すぐにこちらにも現れるだろう。そう言えば、誰が出てくるのだろうか。確実なことは分かっていなかったはずだ。母親か?もしかしたら、ジェラルドが言っていたように殺人犯が出てくるのか?


 「来た」

 イーサンが呟いた。オーブンの方から、正確にはオーブンの中から、焼けただれた若い男の幽霊が這い出してきた。あの顔は写真で見たことがある。ジェラルドの予想は当たっていた。

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