第214話 歓迎パーティー
第214話 歓迎パーティー
朝食のバイキングはパンと卵、肉が中心で、野菜はなかった。果物とジャムがあるくらいだった。美味しいが、あと1ヶ月これだと思うと少し心配だ。体長を崩さないだろうか。
それから時間まで特にすることもなかったから、中庭のプールサイドにあるサマーベッドに横になって本を読んだ。子供たちがキャイキャイとはしゃいでいて「マルコ!」「ポーロ!」と掛け声を上げながら鬼ごっこをしていた。
会場には早めに行った。流石に落ち着かなかったからだ。扉を開けたとき、先に来ていたのは4人だった。自分の名前が書かれた席を探すとすでに隣の席にカミラが座っていて、話しかけてみたら気さくだった。「英語は苦手だからよろしくね」と言っていたが、十分聞き取れた。彼女の出身はアルゼンチンだから、スペイン語なまりが若干あったが。彼女は占い師だ。息子の写真を見せてくれた。
次第に人が集まってきて、全ての席が埋まってから少しして主催者のピーター・ブラックストーン氏がやってきて、挨拶と概要の説明、それから付き人さん達が諸々の資料(サインする書類やホテルのパンフレットなど)とタブレット(殆どの資料はここに入っていた)を配って、それぞれの自己紹介が始まった。
分かったことは、ヨーロッパと中韓を除く殆どの国から人が集まっているということだった(ヨーロッパ組と中韓組はまた別で募集するらしい)。宗教関係者や怪しげな(私たち自体が怪しい存在だが)能力者たち、どこにでもいそうな人たち、それぞれがまた固有名詞や専門用語を話すものだから、頭はすぐにパンクして、自分の番が来たことに気付かなかった。周りから突っ込まれて結構恥ずかしかった。先が思いやられる。
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昼食は立食式で、早くもアルコールが並んでいた。端の方にあるテーブルに食べ物を置いて、誰と話そうかと緊張しながら周囲の様子を窺っていると、ジェラルド(フィリピン人)が親切にも話しかけてきてくれた。
「ウエノ、君は幽霊や妖怪なら何でも見つけられるんだってね」
ジェラルドはビールを片手につい先ほどの話を尋ねてきた。
「こちら側にいたらですが、そうです。気配を感じることはかなり苦手ですが」
私も同じ銘柄のビールを飲みつつ、返事をした。
「ジェラルドは機械で怪奇を見つけるのが得意でしたよね。その辺に興味を持っています」
「そう。簡単なのはフィルムのカメラとサーモグラフィーだね。カメラに映りたがる幽霊は多いし、そういうのがいるとその場の気温が下がる。今はスマホに取り付けられるのもあるから、試してみるといいよ」
自分の専門に興味を持ってもらえたのが嬉しいのだろう。ジェラルドは上機嫌になっている。
「ビデオカメラや計測器を何台も配置して、複数のモニターで確認するんだけれど、とにかく機材の値段は高いし、整備は大変だし、それでも広い範囲を同時に、客観的に調べることができるのは強みだよ」
「誰かと組になっているとやりやすそうですね」
皿に取っていた鶏肉にフォークを伸ばしつつ、話に相槌を打つ。
「そうなんだよ、むしろ誰かと一緒の方がいいんだ。自分の手に負える相手とは限らないからね」
確かにそうだろう。機械に頼っているということは、自身の力はむしろ弱い方なのだと思う。それから少しの間二人で話して、ビールを取りに行く途中で別れた。
「ウエノ、河童を見たことあるかい?」
今度はマリオ(コロンビア人)が話しかけてきた。確か怪奇を観察して記録するのが仕事だったはずだ。
「河童ですか。ありませんね」
頭の上に皿を乗せた例の姿が思い浮かんだ。本物はどうなのだろうか。
「そうか。日本には妖怪がたくさんいるんだろう?行ってみたいと思っているんだ」
私の返事に特に気にすることもなく、マリオは続けた。
「その時は観光案内しますよ」
「ありがとう。是非頼むよ」
「ところで、そういう妖怪の情報は共有されていないのでしょうか」
日本に来て滞在するとなれば金がかかるだろう。図鑑のようなものはないのだろうか。
「ないわけではないけれども、精度がね。それに、時間が経てば姿形は変わっていくし、何より、自分で見たいんだ」
マリオの目は輝いていた。
それから幾人かと話して、大体打ち解けた所で宴は終わった。二次会などはなく、部屋に戻って、硬貨虫に餌のクリップをあげて、ゆっくりと体を休めることにした。移動の疲れもまだあったし、頭も回転しっ放しだったし、表情をつくりすぎて頬が疲れていた。




