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第21話 旧校舎の七不思議(前編)

第21話 旧校舎の七不思議(前編)


 旧校舎は既に使用されていないながらも、学校行事で使うような飾りや道具をしまう倉庫として使用しているからなのか思っていたよりも埃っぽくなかった。


 「あの、どこから行くんですか?」


 「そうですね、まず図工室と理科室に行きたいのですが教えてもらえますか」


 「はい、どちらも一階の北側にあります。でも七不思議と関係ないですよね?」


 「七不思議を対処するのにいろいろな道具がいるんですよ。新校舎からも色々と持ってきているんですよ」

 私は傍らに持っていた誰かの体操着入れを持ち上げた。この袋は適当に取ってきたもので、中には旧校舎に来るまでに集めた諸々が詰め込まれている。


 図工室と理科室は隣りあわせになって校舎北側の奥にあった。まず私達は奥にある理科室に入り使うものと使えそうなものを回収することにした。旧校舎は普段使っていないためか部屋に鍵は掛かっていなかった。既に理科室にはほとんど物が置いていなかった。

 何とか必要なものを探し出し図工室に移ろうとしたときだった。いつの間にか古い骸骨標本が入り口に立っていた。


 「きゃあっ!」

 驚いた城山さんが叫ぶ。私は集中して感覚をコントロールする。これは怪奇ではない。ならばなぜここに動いているのか。そもそもなぜここに存在するのか。探し物の途中に骸骨標本はなかったはずだ。


 「城山さん、ただの骸骨標本ですよ」


 「本当ですか?ああ、びっくりした」

 城山さんはそれを恐る恐る見て言った。

 「授業で使ったのよりぼろぼろです」


 と言うことは、新校舎から移動してきたのではなくどこかから現れたのか。七不思議以外にも何かあるはずだ。しかし何も感じないのが不思議だ。なんにせよ気を付けなければならない。図工室に移動してからも周囲を警戒しながら使うものを探した。懐中電灯を布にくるんで明かりを調節する。それが幸いした。


 ヒタ、ヒタ…


 不意に窓の外から誰かの足音が聞こえる。人間の足音には聞こえない。城山さんに姿勢を低くして静かにするようジェスチャーをすると彼女のそばに寄った。震えている。


 「あれは、何ですか」

 城山さんが震えた小さな声で聞いてきた。


 「あれは、何でしょう」

 私にも分からない。

 「この部屋の裏には何がありますか」


 「あ、焼却炉があります」


 「それなら焼却炉の七不思議でしょう。遠くに行くまでしばらく潜んでいましょう」


 城山さんが話していた『焼却炉で燃えている男子生徒』はこんな内容だ。



 『旧校舎が使われていた頃は用務員さんが焼却炉でゴミを燃やしていたんです。だけど用務員さん以外にも余計なものを燃やす人がどうしてもいたんですって。だから燃えない物がたまって定期的に掃除していたらしいんだけれども。そんなある日、用務員さんは焼却炉の燃え残りから沢山の骨を見つけたんです。そのことは問題になって、先生が当番を組んで焼却炉の監視を行ったそうです。それで、何人もの先生が、ある男子生徒が小動物の死体を隠れて捨てているのを目撃したんです。自分で殺した死体でしょう。男子生徒は相当叱られてからそうするのをやめたんですけど、それを許さなかった小動物の霊が男子生徒を焼却炉に閉じ込めて燃やしてしまったんです。それからその男子生徒が焼却炉で燃えながらうめいている声や、焼却炉から逃げ出して動いているのが見られるようになったそうです。逃げ出してもまた閉じ込められてしまうのに』



 足音が聞こえなくなって、ようやく私達は図工室から音を立てないようにして出ることができた。


 「燃やされた男子生徒がいないうちに焼却炉に行きましょう」


 「え、会っちゃったらどうしましょう。あんなものがいるのに行くんですか?」

 城山さんは顔面が蒼白になっていた。


 「足音しか聞こえていないですが、話によるとあれは逃げているわけですから自分から近付かないでしょう。だから動物の霊に戻される前に細工をするわけです」


 私達は玄関近くまで戻ってから通用口を通って外に出た。右手には飼育小屋だったらしきものが見える。ここの動物が殺されたのだろうか。いや、そうならもっと早くに気づかれていた訳だから関係ないだろう。それでも不気味なことには変わらない。ただ、私には何もいないことがわかるからそんなに怖いということはない。


 左手に進むと曲がり角の先に例の焼却炉があった。誰ももう使っていないはずなのにそれは熱を帯びていて、近づけば火傷をしてしまいそうだ。肉の焦げた臭いがする。燃やされた男子生徒が周囲にいないことを確認して、私は方位磁石を近くの地面に置いて方角を合わせプラスドライバー6本を焼却炉から見た決められた方角に刺し、方位磁石を踏みつけて壊した。


 「城山さん、後は離れて様子を見ていましょう」


 「え、はい。もう終わったんですか?」


 「あとは待つだけですね」

 私達は再び図工室に戻り、カーテンをわずかに開けて窓の外を眺めていた。城山さんも骸骨標本と足音の後は怖そうなものがなかったのか落ち着いてきているようだった。私はどちらかというと焼却炉が勝手に動いている方が怖い。十数分ほどだろうか(時計は進んでいなかった)、待っていると再び燃えている男子生徒が現れた。


 ズサ、ズサ…


 それは先ほどの音とは違う。理由をその姿を見て理解した。それは燃えかけた死体で、末端は炭になっていて崩れている。四肢は骨がむき出しになっている所もあれば生焼けになっている所もある。顔は焼けて禿げており鼻の穴と口が開いて固まっている。内臓はなくなっているようで剥き出しの肋骨と背骨がところどころ見える。それが、後ろ向きに、引きずられるように動いていた。小動物の霊に引っ張られているのだろう。そのまま焼却炉まで連れられるとそれの姿が消えた。と、同時に焼却炉も止まったようだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 始めから相当な見た目だ。城山さんには音がした時点で窓から眼を背けるように言って正解だった。私達は再び通用口に戻り、待っている間に決めた次の行き先であるプールの女子更衣室に向かうことにした。『プールの女子更衣室に出る女教師』はこんな話だった。



 『昔、この学校で働いていたベテラン女の先生がいたんですけれども、その先生は結婚したのが遅く、子供がいなかったそうです。それで、あの、ある日妊娠できていたことが分かったんです。その先生は大喜びで楽しみしていたらしいんですけれども、ある時ダメになっちゃったんです。その先生は気が狂って自宅で自殺してしまったそうです。そして、自分がもっと若ければ産むことができたと思い込んで、自分の子供を、あの、若い女の子なら産めるということで、その、取り出して自分に入れようとするそうです』


 通用口から出ると先ほどの臭いが消えていた。右手に進みプールに併設された女子更衣室の前まで来た。


 (中からは変な音も、臭いもしない…)

 幸いなことに、更衣室は耐水に優れていて誰も使っていなかったからなのかカビ臭いこともなさそうだ。外にあるからなのか鍵がかかっている。こういう時の選択肢は一つだ。私はドアノブ目掛けて蹴りを入れてそれを壊した。バキッ、と鈍い音がする。


 「え、壊すんですか?」

 そういえば城山さんの前ではまだしていなかった。


 「はい、ここは本当の学校ではないので壊しても何ともないんですよ」

 そんなことを言いながら鍵が壊れた扉を足で開けて(ドアノブがないからだ)中を覗く。片側に着替えた服を入れるような棚、もう片側に何かをしまうロッカーがある。シャワー室はまた別にあるようだ。ここでかつて行われていたことを想像する余裕などなく、城山さんに中に入らないよう伝える。私は棚の中に新校舎で拾った女の子のキーホルダーを入れて、そこに血を一滴落とした。


 ガタガタ、ガタガタ…


 途端にロッカーが振動し、キーホルダーがばらばらになる。目の前に太った中年女性が何か腐ったものを抱えている怪奇が現れた。七不思議だ。その姿と腐臭を確認し、すぐにそれ目掛けて落ちていた長棒を振り下ろした。


 「ギャアァ!」

 見事ヒットしその女性の動きは止まった。一見人に見えるからわずかに罪悪感を覚えるが、腐臭がそれを打ち消す。この女性が止まったわずかな隙に、それの右肩に黒いマジックペンで「蛇弯」と書く。多少字は崩れていたが何とか書き終えてから薬缶を取り出してふたを開ける。女性は硬直したまま動かない。女性から眼を離さないようにして更衣室から出て、壁を蹴って大きな音を立てるとその姿は薬缶の中に消えた。


 「終わりました」


 「あ、はい。手、大丈夫ですか」

 先ほど血をたらすのに針で少し刺した手の甲を心配そうに見ている。


 「これくらいならすぐに止まりますよ。でも念のため絆創膏をしましょうか」


 「でも、どうしてあれで七不思議を対処できるんですか?」

 皆不思議に思うだろう。私も知りたい。江崎さんのように適当にごまかすことは難しそうだ。


 「企業秘密なんですよ」

 迷った末にごまかすより、答えないほうが良いと考えた。追及されることもなく、そういうものと思ったようだった。


 私達は再び校内に戻った。そういえば城山さんはこの話をしたとき、顔が真っ赤だった。必要だったとはいえ悪いことをしたと思った。


 

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