第208話 二本足(後編)
第208話 二本足(後編)
一通り見終わった後、公園に立ち寄って地図を広げ、そこに色々と書き込んだ。目撃場所、怪しそうな場所、桾崎さんが何かを感じた場所、別の怪奇が多い場所や少ない場所、まとめることで見えてくることもあるからだ。実際にこのときも二本足が歩いていると思われるルートを視覚化することができた。ベテランになると直感的にわかるようになるらしい。
「何かいます」
桾崎さんが急にハッとして公園の出口からやや左斜めの方を弱く睨んだ。地図を畳んで懐に入れたときだった。
「二本足でしょうか」
私も真似して同じ場所に目をやってみたが、住宅の壁が見えるだけだ。
「多分そうです」
桾崎さんの声には緊張が混ざっている。実際必要があれば対応するが、それは桾崎さん頼りな部分がほとんどだ。
「…行きますか」
ちらりと桾崎さんの方を見て目を合わせると、桾崎さんが「はい!」と小さく、しかし気合の入った声で囁いた。
桾崎さんを先頭に気配を感じた方向に進んでいく。気持ちは急いでいるのだが走らずに、しかし早く出会えるように、出会った時のことを考えて落ち着いて、歩いていく。まあ、急いだところで何にもならないだろう。
桾崎さんが曲がり角を曲がった。私も続いて曲がろうと足を進めると、急に桾崎さんが引っ込んだ。あまりにも急で避けられなかった。腹によいものを食らった。
「ごめんなさい!、…いました」
「大丈夫ですよ」
痛かった。
「…どのような様子ですか」
「えっと、歩いていました」
シンプルな返事だ。欲しい答えは違ったが。
「ソレのせいで熱が出ることはありそうでしょうか」
「はい」
桾崎さんは確信を持って答えてくれた。どうして分かるのだろうか。不思議だ。
「それに、あれ位ならボク一人で行けそうです」
「それなら、私は後ろにいますから」
信用しているが、念には念を入れておきたい。
「はい!」
嬉しそうな返事だ。
桾崎さんが角を飛び出していく。私も懐に手を入れながら曲がると、既に桾崎さんは思ったよりも前を走っていた。その先には二本足がいて、逃げようとするソレに桾崎さんが九字を切った声が聞こえて、あっという間に追いついた桾崎さんが見えて、金剛杖で殴りつけていた。その一撃で二本足は動かなくなった。
「流石ですね」
追いついた私が声をかけたときにはもう桾崎さんが札を貼っていた。
「ありがとうございます!上手くいきました!」
「しかし…、この足、何が同期させているのでしょうか」
話を聞いたときから疑問だった。クエスチョンマークを頭に浮かべている桾崎さんに触っても良いか聞くと大丈夫ですと返って来たから、グローブをはめて試しに片足を引っ張ってみた。足は途中までは離れたが、3メートルほど行くと途端に重みが倍になり、触っていない方の足もつられて動き出した。間には何もないのに、不思議だ。
更に、膝蓋腱反射をしないかと膝の下を軽く叩いたが、何度か試しても動かなかった(ということは脊椎はないようだ)。最後に桾崎さんが九字を切ると二本足は消えた。
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早めに仕事を終えた私たちは何を話すこともなく車に戻った。桾崎さんがすぐに終わらせたから、私がいる必要はなかったのではないかと考えた。夜中に子供が1人でいると面倒ごとが多いのだろう。
ホテルに着いたときはありがたいことにまだ暗かった。すぐにベッドに入って眠った。
翌朝早くから例の姉弟の所に行って、カメラを返してもらった。それから遅めの朝食を桾崎さんと食べた。サケの切り身があったが鮮度はいまいちだったと思う。カメラは後で見ることにして、チェックアウトして桾崎さんをP駅まで送り、レンタカーを返して、私も新幹線に乗ってG駅に帰った。ふと思い立ってみーさんに飲みに行けるか聞いてみたが仕事中だった。
電車のダイヤがいい具合だったからそのまま文松町に向かい、買い物をしてから家に帰った。昼食と夕食をまとめて作ってから食べて、洋画の続きを見て、夕食を食べた。キリの良い所がないように上手いこと作られているおかげで知らないうちにのめりこんでいた。勉強していなかった。風呂上がりにカメラの中身を見ながら最低限はやっておいた。カメラには変なモノは映っていなかった。
布団の中であの二本足がどうやって高熱を出させたのだろうかと考えた。何かが感染するのか、炎症を起こさせる物質が出ているのか、よく分からない。一番考えられるのは目撃してしまったことによるストレスだろうか。応用して薬にして儲けるのは無理だろう。試験や手続きの前に怪奇が不定の存在だからだ。




