第207話 二本足(中編)
第207話 二本足(中編)
昼間の探索で目的の物が見つかることはまずないが、この時もその通りであった。実際に町を歩いて地理や依頼の邪魔になるものを知ることが目的だった。他の目撃証言や目撃者を捜せばよいのにと思うが、その手の仕事はそういうのが得意な人がやるようだ。あるいはみーさんのようなサイコメトリーで読み取るのだろうか。適材適所だ。
私と桾崎さんは一通り歩き回った後で近くの公園に入って休憩した。コンビニで買ったカップアイスを食べながらベンチに座り、私は目の前の木陰を眺めていた。
「あの猫見えますか?尻尾が2本ありますね」
木の奥の方、倉庫の陰から猫が出てきた。木陰で丸まった。
「あ、猫又になりかかっている猫です」
桾崎さんがそう言ってアイスを食べるのを止めた。
「猫又…、あの手拭いをかぶって踊るアレですか」
「そうです。この後家に残るか、山の中に行くかするんです。寿命で死んじゃう時もあるんですけど、どんどん大きくなってライオンくらい大きくなるモノもいるそうです。他にも、言葉を話したりするんですよ」
饒舌になった桾崎さんはそのままそっと席を立ち、猫の方へ歩いていった。気配を消しているのだろうか、猫には気づかれていないようだ。近づいて、もう少しで届きそう、という所で猫は急に立ってどこかに行ってしまった。
「残念ですね」
桾崎さんはとぼとぼと戻ってきたがすぐにアイスを食べ始めた。
「はい。難しいです…」
「猫は好きですか」
「はい!動物は好きです」
桾崎さんが嬉しそうにニコニコと笑いながらこちらを向いた。そう言えば目の前で動物の怪奇に対応したことがあった。
「でも、怪奇は別ですよ」
それは何よりだ。
「アレ、放っておいても大丈夫でしょうか」
桾崎さんは言っていなかったが、確か猫又は人を食うと言い伝えられていたはずだ。
「えーっと、猫又にも色々なのがいますから、悪いことをしていなければいいんです。それに…、ならないで死んじゃうこともあるみたいだし」
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その後、車に戻って時間を潰した。私はタブレットで本を読んだ。桾崎さんは学校の課題をやっていた。それから例の姉弟に会って話を聞いた。学校帰りの彼らは桾崎さんと私を見て少し変に思ったようだが、特に警戒されることもなく普通に話を聞くことができた。とは言っても足が人間のものそっくりで、毛が生えておらず、筋肉(?)の付き方からは男っぽいということくらいだったが。姉の方の部屋から路地が見えるということだったため、カメラを一台置かせてもらえることになった。
夕食はホテル近くのラーメン屋で食べた。チャーシュー麺の大盛りにした。歩き回って疲れていたのだろう、簡単に腹に入っていた。それからホテルに行った。部屋の確認をすると、OLのような姿の怪奇(幽霊?)がバスルームに佇んていた。ホテルに部屋を変えてほしいと言うと呆気ないくらいに別の部屋を使うことができた。こういうことがあるから困る。悪さをしていなくても、見られたくない。
それから風呂に入って(流石に今度はいなかった)、ほんの少しだけ仮眠を取った。
夜、再び掟木地区に行った。桾崎さんは寝ないでテレビを見ていたらしい。あまり寝なくても平気だそうだ。若さなのか特殊な能力なのか分からない。まだ人家には明かりが点いていて、しばしば人とすれ違っていた。堂々としていれば特に何も怪しまれることもないが、交番の前を歩くときは少し緊張した。以前のようにトラブルに巻き込まれると困るからだった。
まずは弟が二本足を見た辺りを中心に、彼がソレを見た時間帯と被るように歩いた。塾帰りの生徒たちともすれ違った。彼らが見ていないのに弟(と姉)だけが見たのは、ソレと波長が合いやすい家系なのだろうと思った。しかし、十数年生きていて一度も見かけていないということは(その姉弟はずっと同じ家で育っている)、二本足は最近発生したのだろうか、そう考えると昔からいるモノがいる一方で、現れては消えて、たまに残るモノもあって、どんどん伝承が変わっていくモノがあって、生物の進化に似ているとも思った。今考えると単に移動してきただけかもしれない。




