第206話 二本足(前編)
第206話 二本足(前編)
もう暑くなってきて、自転車で近くを回っているとテントウムシやトンボや蝶や、色々な虫を見るようになった。走っているときは気持ち良いが、止まると暑さが追い付いてきて、信号待ちのときは風通しの良い日陰を選んで止まるようにしている。他も私と同じ考えのようで、日陰で人はもちろん、猫や、毛むくじゃらの球のような怪奇が休んでいるのを見た。
協会のHPには不定期的に依頼が掲載されるが、中々できるものはない。仕事は選んでいられないが、怪しいものは危険だ。どうしたものか。素人だからというのと気配が分からないのがネックだと思う。後者をどうにかできるのか先日藍風さんに聞いたら感覚なのでよくわからないですと返ってきた。他の人もそうだった。こういうとき、つまり藍風さんには学校があって一緒に仕事ができないときで、仕事が見つからないときは誰かの依頼を手伝っていることが多い。それもないときは弦間さんや嶽さんに聞いている。そうすると桾崎さんと組になって何かさせてもらうことがある。今回もそうだった。
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その日は朝から天気が良かった。朝食を食べた後、硬貨虫の尻尾の硬貨(薄紫色のうずまきと6本足の哺乳類?の絵がそれぞれの面に書いてある)をもらって餌を水槽の隅に置いておいた。不服そうにガタガタと暴れていたが、すぐに戻るからと言うと比較的おとなしくなった。最近、硬貨虫に人の言葉や行動が分かるような気がしてならない。
それからG駅まで電車で行って、それからP県まで新幹線で向かった。いつものことだが、車内は比較的空いていた。通勤時でも帰省の時期でもないのに動いているのはありがたい話だ。始めに乗った車両にはスーツ姿の女性の振りをした怪奇(毛むくじゃらの猿のような姿)が乗っていた。気味が悪く隣の車両に移動した。
P駅に着いた後、桾崎さんと合流して遅めの昼食を一緒に食べた。桾崎さんの希望でレストランに入って、そこのおすすめのミートスパゲッティを食べた。それからレンタカーを借りて、そこから30分ほどの団地へ向かった。
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今回の依頼は弦間さんの所からだ。P県P市の掟木地区で、最近二本足が現れるらしい。それはさも人が歩いているように動くというだけの妖怪のようだったが、ソレが歩いていた家の中年男性が高熱を出したらしい。
始めに見たのは塾帰りの中学生で、自転車のライトに足の影が映ったからそのまま視線を上げていったら、何もなかったそうだ。
次に見たのも同じ中学生で、やはり再び同じように塾帰りに同じ道で見かけたそうだ。この時になってようやく気のせいではなかったとわかったそうだ。
そして、その姉が夜中に二本足を見た。向かいの家の庭を歩いていたそうだ。弟が冗談で話していたもの(冗談として話すことですっきりしようとしていたのかもしれない)と一致していたからはっきりと覚えていた。しかし寝ぼけていたと思ったそうだ。
その翌日にその家に住んでいる人が高熱を出して、妙に思ったところからどこをどう経由したのか弦間さんたちの所に調査の依頼が来た。関連性は不明だが、念のため確認をして、必要であれば対応するのが今回の仕事だ。
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近くの駐車場に車を停めて、まず私たちはその地区を歩いた。天気が良く、荷物を背負って歩くと少し汗ばんだ。桾崎さんは金剛杖を持っていたくらいで、他はどこにいてもおかしくない格好をしていたから、長い棒を持っていても何かの遊び道具と思われていたのか、特に注目はされていなかった。




