第20話 新校舎から旧校舎へ
第20話 新校舎から旧校舎へ
確かに生徒会室に明かりがついていない。扉に手をかけても開かない。この教室は扉は頑丈そうだし、上の方に窓はなく、中の様子を見ることができない。集中して壁に耳を当てる。
「人体模型はどこ行ったんですか?真奈ちゃんと知都世ちゃんはどこに行ったの?」
「人体模型は対処しましたのでもう来ないですよ。多分ですが、今私達がいる新校舎とさっきまでいた新校舎は別物だと思います。中から人の気配がしないのでここに藍風さんたちはいないでしょう。安全なところにいると思いますよ」
「ほら、私の車があそこに停めたはずなのにないでしょう」
窓の外から駐車場が見える場所まで連れて行き車を停めたはずの場所を指さす。
「あ、本当だ。車がないです」
「ね、違うところでしょう」
「よかった。でも、それならどうやって真奈ちゃんたちのところに戻るんですか?」
「多分、七不思議を全て片付ければ合流できます。ですので、最後に保健室に行きましょう」
私達は階段を下りて1階に行き、保健室へ向かった。人体模型がなくなったので大分安全になったがそれでも何が起こるかわからない。
「あ、保健室に行く前に職員室に寄りましょう」
「わかりました。でもどうしてですか」
「煙草が必要なんですよ」
新校舎の職員室が1階にあるのは入ってきたときに確認している。そのときは気づかなかったが保健室と職員室は隣りあわせだった。その方が運営上都合が良いのだろう。職員室に気を付けながら入り電気をつける。教員の机から煙草を探そうと思ったが机の数は思っていたより多い。
「江崎さん、煙草を吸う先生の机を教えてもらってもいいですか」
「あ、はい。ここと、ここと―」
教えてもらった教員の机の引き出しを抜いてひっくり返し煙草を探す。プライバシーも何もないが、ここを出れば証拠は残らないしそんなことするつもりはないので考えないことにしよう。ここまで正確に小物までも再現しているのはどういう理屈なのか知らないが、エネルギーを確実に使っているだろう。怪奇に理屈を求めても意味はないが。
そんなことを考えながら次々と机の中身を探す。しかし分煙が厳しくなったからなのかなかなか見つからない。
「上野さん、こっちの個人ロッカーはどうでしょうか?」
確かに生徒が盗まないように鍵のかかったところに保管しているかもしれない。ただその鍵を机に入れっ放しにしているのが浅い。
「やっぱり江崎さんは良く気づきますね」
「えへ、ありがとうございます」
教員のロッカーを開けて中を漁ると予想通り煙草と携帯灰皿が堂々と置いてあった。せめて何かにくるむなりすればよいのにと思う。ついでに保健室の鍵を鍵束からとって隣の部屋に向かった。
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『保健室の奥のベッドに反対向きに寝ていると人形にされる』はこんな内容だった。
『保健室には体調の悪いときに横になるベッドが3つあるよね。その一番奥のベッドでね、枕のある方と反対向きに寝ると金縛りにあって、それでいつの間にか体が人形になってしまうんだって』
新校舎の七不思議の中で一番よくわからないものだと思う。とりあえず横にならなければ何も起こらなさそうだが、ともするとベッドまで引きずり込まれるかもしれない。保健室の鍵を開けて、煙草にマッチで火を点ける。私は吸わないので携帯灰皿にすぐさましまい部屋を開けた。その煙を鉄鉱石、人体模型に投げつけて後で回収したものだ、に当てながら最奥のベッドに向かった。ベッドは仕切りがあってこちらから見えない。慎重に仕切りを開けるとそこには江崎さんが寝ていた。
(いつの間に…)
いや、よく見ると人形だった。驚くほど本物そっくりで動かないせいで死体のようだった。しかしその膝関節は球体であった。私はベッドに煙を当てた鉄鉱石を置き距離をとった。本物の江崎さんは廊下からこちらを覗いていた。目を細めてぼやけるので本物だ。ベッドの上の人形の瞳がいつの間にか開いていてじっとこちらを見つめていた。やがて人形から怪奇の姿が見られなくなった。
「江崎さん、終わりましたよ」
煙草を流しに放って、江崎さんを呼んだ。臭い。
「本当ですか?あ、私?」
扉からはベッドが見えなかったのか。江崎さんは自分の人形に気づいてすぐにその上に毛布を掛けて見えないようにした。よほど怖いのだろう。
「これで先ほどの生徒会室に戻れそうですね」
「あぁ、良かったです」
いつの間にこちらの新校舎に来たのかわからない以上、いつ戻るのかもわからないため急いで生徒会室へ行った。
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生徒会室前に着くと、出たときと同じように明かりが廊下に漏れていた。保健室の鍵がポケットから消えていた。江崎さんは扉を開けて部屋の中に飛び込んでいった。
「お疲れ様です」
そこには藍風さんと城山さんがいた。江崎さんは城山さんに抱き着いていた。
「お疲れ様です。何とか片付きました」
「ありがとうございます。私達の方も大方調べ終わりました」
私は何が起こったのかを藍風さんに簡単に説明した。人体模型の下りで怪我をした手をやたら心配されたが、大丈夫と返しておいた。ほんの少しの時間であったが体を休めてこれからどうするのかを考えた。
「まずは調べ終わった七不思議を教えてもらってもいいですか」
「はい、この首吊り死体の以外はここに書いてあります」
そういって古い新聞の束とメモを渡した。私はそれを一読してから準備を整え旧校舎に向かおうとした。そのとき、
「次は私が行きます」と城山さんが言った。
「真奈ちゃん、危ないよ」
江崎さんが心配する。ついさっきまでの恐怖が鮮明なのだろう。
「ううん。旧校舎の中はこの間生徒会の仕事で入ったから部屋の場所は分かるし、上野さんも一人だと危ないことは変わらないでしょ」
「でも…」
江崎さんが何かを続けて言おうとしたが、それを遮って、
「ありがと。でも、さっきまで安全なところにいたんだからこれくらいしなきゃ。あ、藍風さんは詩織ちゃんと一緒にいてあげてもらっていいですか」
と城山さんは言った。
藍風さんがいて、かつ神社のお札とやらがある生徒会室が一番安全だろう。そうはいっても旧校舎も1人で回るより、万が一どちらかに何かあってももう一方が何とかできる(可能性がある)2人の方が良いかもしれない。城山さんと私は一緒に旧校舎に行くことに決めた。江崎さんはもうしばらく動けそうにないので藍風さんが付いていないと危ない。残りの旧校舎の七不思議について調べていてもらおう。
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生徒会室を出て扉を閉める。中でまだ物音がするから別の新校舎には飛ばされていない。私は既に体験していたからそこまで恐怖は感じなかったし、城山さんもまだそこまで怖がっているようではなかった。玄関からここに来るまでに歩いたは歩いたからだろうか。その道を逆に進み玄関から外に出た。外は再び激しい雨が降っていた。濡れないように雨除けのある所を歩きながら旧校舎の玄関まで向かった。途中で人体模型を落した辺りが見えたが、やはり何もなく、窓ガラスも割れていなかった。旧校舎の玄関は南京錠がかかっていたが途中で寄った職員室から物色した鍵で扉を開けた。生徒会室で城山さんから聞いた旧校舎の七不思議はまとめると次の通りだった。
『○階○番目の女子トイレの首吊り死体』(○、は不明)
『焼却炉で燃えている男子生徒』
『体育館で頭をボールにしている男子バスケ部員』
『プールの女子更衣室に出る女教師』
『被服室にいるばらばらの女の子』
『2年4組の壁に埋まっている骸骨』
『職員室に現れる足を引きづった男教師』
やはり新校舎の七不思議と毛色が違う。