第200話 天使の公衆電話(前編)
第200話 天使の公衆電話(前編)
いつも思うことだが、騒音というのはどうしようもない。どこまでを許す範囲にするかはそれこそ人によるが、生活音程度なら私は気にしないことにしている。お互い様だからだ。ただ、集合住宅の庭からギャアギャアとバーベキューの音がしたり、ボロンボロンと下手なピアノの音がしたり…。まあ。日中だがら我慢しろというのも、夜勤の人のことを考えると理解できない。子供の出す音だからというのも難しい。自分たちには可愛くても、他人から見たら有象無象のただの音でしかない。それなら消音室に住めというのも、声の大きい者が好きにするのも…。音の大きさや間隔が不定期だと不快さが増す。まあ、そういうおとなりさんは私が壁に耳を当てれば、会話が筒抜けになるわけで、それをどう使おうが私の自由なわけだ。嫌なら引っ越せばよいだけだ。
これを書いたのは今回の依頼と多少関係があるからだ。みーさんから仕事を手伝ってほしいと連絡があった私と藍風さんは3人で出かけることになった。人数が多い分報酬も少なめ、と思っていたが普段とそう変わらなかった。つまり、元々の依頼料が多めだったわけだ。
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その日私は少し早めに起きて、日課の硬貨虫観察をしてから文松駅に行った。そこで藍風さんと合流して一緒に電車に乗った。藍風さんは春らしい服装で、近づくとシダーのような、甘いような香りがした。電車の中で他愛もない話をしているとすぐにG駅に着いた。
それから、待ち合わせをしていたみーさんと会って新幹線に乗った。みーさんはいつものジャージのような恰好をしていた。スイートレモンのような香りがふわりとしていた。どこでもこの姿なのにはもう慣れた。私はいつものジャケットスタイルだったから、やはりちぐはぐだった。
新幹線の中で、私は藍風さんとみーさんの後ろの席に座った。ガールズトークが繰り広げられるのだろうかと少しだけ考えていたが、2人ともこれという話をしていなかった。まあ、新幹線の中であまり話はしないものだ。私は小説の続きを読んでいたが、キリの良いところで止めて、その後は窓の外を見ながら依頼内容を思い出していた。
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L県L市の外れには往々にしてどこにでもある不法投棄されたがらくたの山があるが、そこに「天使の公衆電話」が発生するというのを協会が突き止めたらしい。
この公衆電話、中に入って受話器を取り、「○○さま、○○さま、教えてください」と知りたい人を強く念じてその名を言うと、その人の声が聞こえてなんでも質問に答えてくれるという。質問の度に体力が奪われるらしいが、答えを聞くことに中毒性を帯びているというか、こうしたものを使うほど相手にのめりこんでいるわけだから、大抵死ぬまで続けてしまうそうだ。
厄介なことに、現れるたびに呼び出すことができる時間が違っているし(今のところ午前2時22分というのが有力な噂)、いつの間にか他の場所に移動している。だから、興味本位で試してから一度離れることができたとしても、また使いたくなって、それを探し、錯乱してしまう。更に厄介なことに、壊してもいずれ別の場所に現れる。
私たちがすることはそれを探して破壊するということだ。どこかに現れるまでの一時しのぎだ。ただ、私たちに破壊や攻撃といった言葉に合う能力を持っている人はいない。私が物理的に壊すのだろうと思っている。
なお、この公衆電話、中にあるのは普通のものではなく黒電話らしい。藍風さんに黒電話の使い方を知っているか聞いたところ、ややすねた感じでそれくらい知っていますと返ってきた。今時の子どもも知っているものだろうか。藍風さんが少数派な気がする。
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途中、駅弁(鶏の照り焼き弁当)を食べてから再び小説の続きを読んだ。L駅についてからレンタカーを借りに行った。藍風さんもみーさんも後ろの席に座った。慣れない道で慣れない車だったから、ホテルまでの短い道のりでも無駄に疲れた。チェックインをしてから夕食までの間、私は部屋で勉強をした。
夕食は駅近くのレストランで食べた。歩いていった。風が気持ち良かった。サラリーマンが方々の居酒屋に集まっていた。
何だかんだで200話目です(実際はもう少し前でしたが…)。
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