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第196話 逆さおじさん(中編)

第196話 逆さおじさん(中編)


 山田地区は県の中心地と同じ市に含まれているが、賑やかな駅近くを離れているから、高層住宅よりも一軒家が目立つ場所だった。街灯にスクールゾーンの看板が照らされていて、どこかの家から肉じゃがの匂いが流れてきて、ジージー鳴く虫の声が聞こえて、ちょうど良い涼しさだった。スマホのアプリを開いて時々道を確認しながら、私たちは一緒に歩いた。


 藍風さんは気配を探っていた。私は感覚で逆さおじさんを探していた。電気の消えた公民館から呻き声が聞こえて、苔の生えた塀のしみがこちらを伺うように動いて、微かに腐った肉のような臭いがして、落ちていた枯れ枝でしみをつんと突いたら逃げて行った。わざわざやらなくても良いことだけれども、何の気なしにやってしまった。


 そうして、一通り大き目の道を探したが、すぐに見つかるはずもなかった。数か所普通の怪奇の数が少ないエリア(つまり強い怪奇が出現している可能性のある場所)があったが。私達は一旦車に戻って待機することにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 およそ2時間後、私達は再び同じ道を同じように歩いた。前よりも賑やかさは鳴りを潜めて、ぽつぽつと家の明かりが点いていただけだった。逆さおじさんを探しながら、見た目はともかく音や臭いに特徴はあるのだろうかと考えていた。今度は少し離れた道も通った(出会った、見たと言われている場所も含む)が、例の怪奇を見つけることはできなかった。しみは元の位置に戻っていた。


 それから私達はホテルに戻り、少し部屋で時間を潰した後、朝食のバイキングを食べに行った。普通の味だった。その後ベッドでぐっすりと眠った。前日の昼に寝ておけばよかったかもしれない。



 夕方に目を覚まして、風呂に入ってコーヒーを飲んで、体を冷ましながらもう一度逆さおじさんについての報告を眺めた。何度か目を通していたが、何かヒントになるものがないかと思ったからだった。しかし実際はただ文字の上に目を走らせていただけで、頭の方はあまり回っていなかった。夕食はもう一度ホテル近くの定食屋に行って野菜炒め定食を食べた。


 再び山田地区まで車で行って、駐車場からは歩いて例の怪奇を探した。藍風さんは少し眠そうだった。小さく欠伸をして、その後で自分がそうしたことに気付いて、照れくさそうにしていた。途中ですれ違ったのは大人がほとんどだったから、噂の効果が出ていたのかもしれない。だから却って自分たちが目立っていた。普通の怪奇が少ない場所は前日と違う所にあった。せめてもの目星がたてられれば良いのに、と思った。


 車の中で待機している間、私はタブレットで小説を読んた。藍風さんは英語のリスニングをしていた。漏れ聞こえる音で分かった。私たちの仕事はこの日の朝までだった。だから内心、もう出てこないだろうと思っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 山田地区の少し込み入った路地の、ちょうど余った場所に作られたような公園の前を通った時だった。不意に藍風さんが足を止めた。


 「あ、それらしいモノの気配がします。2つ道を挟んだあたりです」

 急に分かったということは、今までこちら側に姿を現していなかったモノだろう。


 「そうなると…、あの理髪店のある所ですね。それらしいですね」

 マップアプリで調べながら返事をする。同時に、聴覚と嗅覚を尖らせる。音はしない。臭いは微かにする。向こう側の、人間の臭いだ。


 「こちらから回って行きましょう」

 藍風さんがマップを指さして、少し遠回りになる道をなぞった。


 「そうですね、その方が遠くから見ることができます」


 2人とも札を取り出して手の中に握りながら、来た道を少し戻り、角を曲がる。追ってくる足並みは遅いと聞いているから、逃げることは可能だろう。それでも実際近くにいるとなると緊張する。


 (そう言えば…、追いつかれたらどうなるのだろうか)

 噂の中には入っていなかった。追ってくるのだから目的があるのだろう。


 (それは…)

 怪奇の目的なのだから、悪いことの可能性が高い。捕食など、異次元に引きずり込む、殺し、あたりか。いや、万が一、良いことだとしたら…。幸運、宝のありか、金が手に入るのだとしたら…。そういう妖怪はいる。


 角を曲がる。ただ追いかけてくるだけの場合も考えられる。緊張しつつも好奇心が少しずつ現れるのが分かる。


 ピタ ピタ


 私たちの出る方と逆に歩き始めたようだ。近くに他の人の音はしない。角を曲がる。いた。

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