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第194話 天井にいるモノ

第194話 天井にいるモノ


 この間協会のHPに自分向きと思われる依頼があって、応募したら無事に通った。1人用のものだったから藍風さんを誘うことはなかったが、それが正解だったと思う。


 依頼内容だけを見ると、家の中にいるかもしれない何かを探して、必要なら対応するというものであった。いつも思うことなのだが誰がどうこの依頼を振り分けているのだろうか。協会には謎が多い。自分に見ることができる範囲でこれなのだから、他の人はもっと色々とあるのだろう。あるいはその人の能力によって違うのだろうか。そのような気がする。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 当日、私はいつもの時間に起きて普段通りに過ごしてから、G県の某所に車で向かった。そこにある不動産屋で依頼者と会って、再び話を聞いた後でその部屋の鍵と地図を渡された。



 依頼内容はこうだ。管理している古いアパートの一室に、何かがいる感じがして不気味ということで前の住人が退去した。確かに日当たりの悪い所ではあるが、そこで亡くなった人がいるわけではない。依頼者が入った時もそのような感じがしたそうだ。そこを見て、何かいたら対応する。そういうことだった。



 部屋の詳細は書けないが、庭は雑草だらけで、隣の部屋の庭もそうだった。その部屋の駐車場に車を停めて、外観から眺めた。


 (外には、いないな…)

 壁や屋根には何も変わったモノはいない。その部屋にだけ異常があるのだからそれはそうだと思うが。


 部屋の前に立って、年季の入った扉に鍵を挿す。きしむ扉を開けると、昭和の夕暮れの似合う内装が目に入った。貰った見取り図では、今立っている玄関からすぐ見える台所、風呂とトイレ、その奥にガラス戸で区切られた部屋と押し入れがあるはずだ。


 (…?)

 普通、空き部屋のときは戸を開けたままにしていると思うが。


 スリッパに履き替えて、慎重に玄関を上がる。今のところ何もないようだが、急にトイレや風呂から出てくるかもしれない。なんてことのない依頼のようだが、何が起こるかわからない。


 (まずは…、いや…)

 近くにある風呂のドアから開けるべき、いや、それよりも、ガラス戸が気になる。向こうには何も映っていない。風呂とトイレの戸は木製だからその向こう側も見えていないはずなのに、違和感がある。洗濯機や冷蔵庫の置き場所に何もないことにも違和感があるが、それは当たり前だろう。


 (見えない)

 視覚に意識を集中する。見える範囲に危険はないようだ。それから、聴覚と嗅覚だ。


 ノイズ音と言うべきだろうか、環境音の中に何かがカサカサと動く音が聞こえる。臭いは、籠った空気の中に、怪奇の臭いが微かにある。


 (何の臭いだ?)

 怪奇の臭いと姿が同じとは限らない。だが、想定する材料くらいにはなる。何だろうか。…あれだ。住宅街の空き地にある大き目の石をひっくり返したときにいる虫だ。


 風呂の戸を開ける。臭いは強くならない。何もいない。


 トイレの戸を開ける。臭いは強くならない。何もいない。やはりか。


 ガラス戸を開ける。臭いが強くなって、一瞬何も気付けなかったが、すぐに見つけた。天井の四隅と照明の周りにびっしりとゼリービーンズ大の青紫色の甲虫が、ひしめいていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それから慎重に虫の1匹を捕まえて観察したが、特にこちらに害を及ぼすようなことはなかった。怪奇の影響力(?)は、別にその大きさに依存するわけではないし、想像の範囲を超えるから一概に安全とは言えなかったが、見た所どこにいても不思議ではない虫で、怪奇だった。


 やったことはシンプルだった。不動産屋に戻って、掃除機と箒を借りて、駆虫薬をホームセンターで買って、(その帰りに蕎麦屋で大盛りのざるそばを食べて、)部屋に戻った。それからブレーカーを上げて、掃除機を使って虫を吸い込もうとしたが、ダメだった。


 仕方なく燻蒸タイプの駆虫薬を部屋に撒いて、しばらく待ってから部屋に戻ると甲虫は死に絶えていた。掃除機がダメで駆虫薬が良かった理由がよく分からない。とにかく、そうしてから虫の死骸を天井や壁から落として、押し入れの中から掃き出して、あらかた封印用の袋にたっぷりと集めた。念のため札を袋に貼った。数匹分の死骸はどこかに残っていたかもしれないが、多分大丈夫だろう。不動産屋に「また嫌な感じがするか数日後に見てください」と伝えておいた。



 夕食後の缶ビールを飲みながら考えた。私はあの類のを見ても気持ち悪いと思うだけだが、人によっては卒倒ものだろう。朝、目覚めたときにいた衝撃はよくあるドッキリの比ではないと思う。怪奇を感じることができないのは良いことでもある。だからと言って、今更完全に感じなくするのもそれはそれで怖い。ちょうど良いものは、ない。

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