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第190話 ハチの巣(後編)

第190話 ハチの巣(後編)


 私と宍戸さんは油断していた(私の場合は藍風さんを信用しきっていたこともある)から、その音に反射的に驚いた。藍風さんは当然そうなることを知っていたから動じない、と思ったが、肩を小さくピクッと動かした。後に聞いたところ、いつ割れるかは分からなかったという。音自体も大きかったこともあるだろう。


 宍戸さんの例の夢に対する対応はそれで終わった。藍風さんは使った物を全部専用の袋に入れて、そこに札を貼って、別の封印用の袋に入れた。そのころには宍戸さんもようやく我に返ったようだった。


 「これで、終わりなの?」

 宍戸さんの顔には思っていたのと違うと書いてあるようだった。ホラー漫画やアニメで行われるような、怪奇が現れて、技の名前を叫んで、倒す、というプロセスとは全く違うからだろう。事前に話していてもその想定を超えていたらしい。


 「はい。もう大丈夫です」

 藍風さんはいつものように淡々と言った。その表情には宍戸さんを安心させようとする微笑みがある。


 「今のは、えーっと、どういう仕組みですか?」

 ごく当たり前の質問だ。


 「すみません、わかりません」

 藍風さんがそう答えるのも知っている。宍戸さんの次の言葉は何だろうかと彼女の方を見ると、目が合った。私に聞かれても分からないものは分からない。小さく両の手のひらを上にした。


 「私の夢は何だったのかしら?何が見せていたの?」

 1つ分からないことがあると他のことが余計に知りたくなるのだろう。元々こうしたことに興味があるから尚更なのかもしれない。


 「それも、よく分からないです」

 ただ、この手の質問が珍しいわけではない。再び宍戸さんがこちらを見ている。


 「お気持ちは分かりますが、私達のやり方だと、訳の分からないまま終わることが多いのです。あの夢がどういう現象なのかも、あれを見せていた正体もです。ただ、もうご安心ください」

 客観的に見れば、よくある商法やペテンと同じと思われても仕方がないのだろう(その類の物でも一応の理屈らしいものがつけられていることが多いが)。もし、目の前に宍戸さんにも見える怪奇がいて、それが目の前で粉々にでもなれば納得すると思う。


 「これ、お渡しします。護符です。お守りになればよいのですが」

 藍風さんが宍戸さんに護符を手渡した。宍戸さんはそっと受け取ると、ほんの少しは安心したようだった。目に見えるものがある、ということはただの言葉だけよりも信用しやすいときもある。これで、協会に依頼が終了したことを連絡できる。


 その後、私達は自分たちの泊まるホテルに戻った。宍戸さんは自宅に戻った。別れ際にミニチュアをどうしたら良いのか聞かれた。藍風さんが「特に害はないと思います。そのまま取っておいても良いですし、気味が悪いようでしたら協会に送ってください」と答えていた。その場ですぐ返事を聞くことはなかったが、後で宍戸さんから自宅に飾ると連絡があった。まあ、もし協会に送っても、そこの支部の倉庫にしまわれて、永遠に発見されないだろう。


 宍戸さんはこのときから藍風さんと色々話をしていたらしい。そう言えば別れ際に「話し方が似ているね」とも言われた。そうなのだろうか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌朝の朝食は、ごく普通の物だった。不満はなかったし、大雑把な味付けがそれはそれで美味しかった。こう考えると、私は殆ど何でも美味しいと思うようだ。ゲテモノ食いではない、だろう。まずいものはまずい。


 それから、藍風さんと一緒にフライトまでの時間、一昔前の街並みの残る観光地を歩いた。正確にカウントしてはいないが、そこにいた怪奇はサイズの大きいモノが多かった。有名な門を抜けて、観光客相手の商売に目移りしながら、陽気に当てられて、珍しくお土産に売り上げ一位のお菓子を買ってしまった。藍風さんも友達用に買っていた。昼食はそのまま近くのそば屋で食べた。


 飛行機は予定通り発着した。行きよりも増えた荷物を車に載せて、私達は文松町へ戻った。藍風さんを家まで送って、自宅に着いたときには遅い時間になっていた。途中で買った半額の刺身とから揚げ、それから缶ビールを夕食にした。野菜ジュースも飲んだ。ほろ酔いになった後は風呂に入ってリラックスし、ネットサーフィンをしながら眠るまでの時間を過ごした。

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