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第189話 ハチの巣(前編)

第189話 ハチの巣(前編)


 朝食のバイキングは変わらず美味しかった。藍風さんと一緒に最後のバイキングを惜しみながらも存分に堪能した。それから、チェックアウトの時間まで私の部屋で前日の夢の話をすることにした。


 自分の部屋に戻って荷造りをしてから、何となく部屋の窓から外を眺めていると、藍風さんが扉をノックする音が聞こえた。中に招くと藍風さんはすぐに目的の話を始めた。


 「上野さん、スマホに来ていた件ですけれど―」

 私はまだベッドに腰掛けていない。性急な気がしなくもない。


 「はい。何故か宍戸さんの例の夢に迷い込んでしまいまして」


 「フランスの街中…、でしたか」

 藍風さんは思い出すように少し上の方を向いて言った。


 「はい。メールに書いた通りですね。ただ、詳しいことはと言うと、もう朧気です。怪奇の存在を感じなかったことは覚えています」

 私も同じように上の方を向いてみた。しかし、夢の中の細かいことはますますぼやけているようだ。


 「そうですか。…どうやったら夢の中に入れるのでしょうか」


 「うーん…、分かりません」


 「そうですか」

 分かりにくい表情の中にも少し残念そうな色が見え隠れしているように感じた。言葉足らずだったからだろう。


 「私の夢は、藍風さんも知っていると思いますが、色々あって変なことが起こりやすくなっています。それが原因だと思いますが、自分でその夢をどうこうすることは難しいです」

 とりあえず、何かしら取っ掛かりになりそうな事を伝えていく。藍風さんの顔を見ながら―改めて見ると昨日の化粧した顔よりも幼い―、何か表情が変わらないかと次の言葉を考える。


 「そう、ですか」

 ほとんど変わらない表情は、確かに少し変わったが、しかしその意味は読み取れない。


 「夢というのは脳が見せているもののはずでので、そこに怪奇が現れるのはともかく、そこで私と宍戸さんが会った、というのは不自然です。どちらかが見た夢にもう一方が出てきたなら自然ですがそうでもありません。だから、正確には夢を見ているときに意識がどこかに飛ばされて、そこで出会ったのだと思います」


 「そうですよね、それなら分かった気がします」

 藍風さんの表情が満足したものに変わった気がした。


 「まあ、もし夢の中を行き来できたら便利そうですよね」

 そう言って自身が先の話と矛盾していると気づいたが、さらに続けて、怪奇はさらにわけの分からないものであると気づいた。


 「そういえば、そうした話を聞いたことがあります。依頼者の夢の中に入ることができる能力者がいるそうです」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ホテルを発った後は一旦駅前のコインロッカーに荷物を預けてから、怪奇に対応するのに使う物を買いに何でも揃いそうな横町に行く予定であった。しかしその電車には乗らなかった。駅まで向かう途中、藍風さんが使われていないハチの巣をたまたま見つけて、それがドイツ製の古いウイスキーボトルの替わりになるからだった。何故かは全く分からない。藍風さんに聞いても「目に入った時に思い浮かんだ」と言われるだけだった。


 目的地を変えて、地下鉄を乗り継いで向かった先はそこも何でも揃いそうな街だった。大勢の人の中ではぐれそうになる藍風さんを見逃さないようにしつつ(ただでさえ小柄だから)、必要なものを店から店へ渡り歩いて、エレベーターに何度も乗って、買い揃えた。昼食に食べた生ハムとアボガドのサンドイッチはその店のコーヒーとよく合っていた。その後は宍戸さんから連絡があるまで、ただ2人でぶらぶらとウインドウショッピングをしていた。



 宍戸さんの仕事は難航したらしい。思っていたよりも遅い時間になったため、先に夕食を食べて(前日と同じピザ屋)、別のホテルを予約した。宍戸さんから連絡があったのはコインロッカーから荷物を取ってきて、一旦ホテルに行こうとしたときだった。私達はそのまま宍戸さんの待つホテルの、前と同じ会議室へ向かった。


 「お待たせしました」

 会議室の中には宍戸さんだけがいた。城戸さんはいなかった。


 「いいよ。私も今来たところ」

 さらりと手慣れた返事が返ってきた。


 「そうしましたら、早速やりましょう。藍風さん、お願いします」


 「はい。まずは髪の毛を一本もらえますか」

 藍風さんが宍戸さんと話している間に、使う物を取り出そうとカバンを開けて、テーブルに出していく。


 「髪?いいですよ」


 「それを円の形にしてください」

 こちらも準備が終わった。


 「はい」


 宍戸さんが長い髪の毛をきれいな円の形にすると、藍風さんはその中央にハチの巣を置き、その外側にタイピン、木製の「F」の形のブロック、重ねた白い小皿、使い捨てのレンズ拭き、ピンク色の腰紐を並べた。それからさらに外側に、財布に着ける鎖を円状に置いた。


 「右手をこの上に置いてください」

 藍風さんが淡々と続けた。その様子に、今行われていることが傍から見ると訳の分からないことであっても、宍戸さんは質問ができないようだ。藍風さんの顔を見てから、言われた通りに右手を円の上に置いた。2分ほど何も起こらなかった。


 ピシッ


 しかし、唐突に「F」の形のブロックが真っ二つに割れた。

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