第187話 ミニチュア(中編)
第187話 ミニチュア(中編)
「これが宍戸さんの言っていた物置ですか…」
3階部分は外壁に分割線らしきものが見当たらないにも関わらず、簡単に持ち上がって下と離れた。
「これが、物置…。そう見えなくもないですが、言われないと難しいですね」
物置には何も置かれていない。ただの空きスペースにも見える。
「お待たせ。これで全部です」
宍戸さんが小型の台車に段ボールを乗せて戻って来た。中身は例のミニチュアだろう。
「ありがとうございます。ところで宍戸さん、これ…」
物置を指さすと宍戸さんがほんのわずかに緊張するのが分かった。
「大丈夫ですよ、ちょっとしたことです。ここが言っていた物置だと思うのですが、どうしてそうと分かったのか聞きたいだけです」
「それは…、やっぱり何となくかしら。気にしていなかったけれど。いつも引っ越しをしてきた家って分かるのと同じみたいに。上から見るとこうなっているのね」
宍戸さんはしげしげと覗きながら軽く壁の縁をつついた。
「宍戸さん、他の部屋も見せてもらえませんか」
藍風さんがいつもの調子で言った。ありがたい。私が行くわけにはいかない。
「いいですよ。じゃあ隣からでいいですか?」
「はい」
藍風さんが頷いて立ち上がった。宍戸さんが動かない私の方をちらりと見た。
「ああ、私は段ボールの中を見ていますから、お二人で行ってもらえませんか」
「なら、お願いします」
藍風さんはそう言って宍戸さんと一緒にリビングから出て行った。
段ボールからミニチュアを取り出して、1人暮らしの割には大きいテーブルの上に並べていく。どれも同じような材質で、思ったよりも軽い。タブレットに保存ししてある夢の中の情報と照らし合わせながら確認していく。改めて見ると、全て一軒家であることくらいが共通点だろうか。
五感と手元をミニチュアに向けながら、色々と考える。藍風さんの能力は怪奇にとっては予想外すぎるものだろう。例えば、テストで良い点を取るために勉強するのが一般的だが、藍風さんのなら教師を脅して100点にする、は普通か…、校庭のある木のある枝を決められた長さに折って、思いつかないが何かしらをしたら、いつの間にか95点に書き換わっていた、くらいだろうか。そのよくわからない方法を知るためには重要そうな情報を見聞きするなどして得ることが必要らしい。だから、手掛かりを探すのにあちこちを当たっているわけだ。怪奇自体を探すことももちろん目的だが。
最も怪奇を探すことだけに関していえば、こちらに姿を現してさえいれば、私の方が得意だ。ただ、そこにいると知らなければ難しい。常に五感をフルにしていると、情報量が多すぎて疲れるし、焦点を合わせられない。そういう点では気配を感じられる方が便利なのだろう。
それからしばらく宍戸さんの家にいたが、藍風さんも私も有効な手がかりを得ることができなかった。ミニチュアの家は聞いた通りにできていた。客観的に俯瞰すると結構面白いものであった。住んでみたいような気もした。とにかく情報を得られればと思い、ダメもとでリビングにビデオカメラを設置しても良いか尋ねてみたら、何と許可が下りた。ライブにはできなかったから翌日以降に回収する予定にした。流出したら問題だからだろう。
その後、一旦ホテルに戻って変装を解いてから、怪奇の話を聞きたがる宍戸さんの厚意で夕食までごちそうになった。店の外観からしてお洒落で、窯で焼いたピザは格別だった。薄めの生地に乗っているモッツァレラチーズと焼いたミニトマトの甘みと酸味が見事に調和していた。
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部屋に戻った後で風呂に入り、腰と膝を十分に伸ばした。移動のときだけとはいえ、体に負担はかかっていたようだ。ベッドに横たわるとその部分にどっと疲れが来た。そのまま寝るのも悪くないと考えて、電気を消したところで、スマホが振動した。藍風さんからだった。怪奇に対応する方法が分かったとのことだった。ただし必要なものは手元になく、24時間営業の店に行けば揃えられそうでもあったが、すぐにはしないことになった。藍風さんが宍戸さんに聞いてみたところ、あと1日くらいなら大丈夫と返事が返って来たそうだからだった。彼女の真意は分からないが、ありがたくそうさせてもらうことにした。
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