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第186話 ミニチュア(前編)

第186話 ミニチュア(前編)


 この日もホテルで朝食のバイキングを食べた。前日に食べた物とは違う種類のものを楽しみつつ慎重に選んで存分に堪能した。一食いくら分になるのか考えると相当な贅沢をしていると思う。藍風さんが勧めてくれた海苔の佃煮は驚く美味しさだった。隠し味や出汁はいくつ入っていたのだろうか。米単体でも美味しかったのに、相乗効果なのか何かだろうか。品名を控えて後で調べたが、手の届く値段ではなかった。


 食後、自分の部屋で準備をしていると藍風さんからメールがあった。宍戸さんがまた夢の中で不思議な家に引っ越した気になったとのことだった。1階が使われていない喫茶店のようになっていて、3階に生活空間があるというものだった。2階はないが、階段の上に梯子がないと入れなさそうな部屋があったそうだ。



 それから、藍風さんと一緒に宍戸さんのマンションへ行った。宍戸さんはオフの日だった。流石テレビに出ている人物、マンションのセキュリティは強固だった。ついでに言うとパパラッチらしき人物たちもうろついていた。この辺りが芸能人御用達なのかもしれない。


 そんな場所に、どうやって入ったのかと言えば、他に手はなかったのだろうか、マンションの中、つまり住人にも野次馬の目があるのだろうか…。変装して入った。藍風さんは宍戸さんに化粧をしてもらって、幼い容姿が大分大人びて、長髪のカツラとヒールで背の低さもごまかして、宍戸さんと同年代のように変身していた。私も女装した、させられた。藍風さんがあのように悪戯っぽく微笑むのは初めて見た。宍戸さんもノリノリだった。ただ、自分がそうしたらどうなるのか、想像するだけできつかったから、交渉して、何とか老婆の姿になることができた。


 念のためどう化けたかメモをしておく。

 ・腰を曲げて杖を突いて、うつむき、顔を白髪のカツラと帽子で隠す。

 ・膝も曲げて背を丸め、身長をごまかす。

 ・顔の化粧は宍戸さん任せだが、そんなに時間がかかっていないのに、鏡を見るとそれっぽく見える。田舎にいそうなおばあさん、あのアパートの大家に似ている。コントメイク?

 ・服は間に合わなかったから元々着させられる予定だっただぼついた青い女もの。すね毛をそられなくてよかった。この服には老婆の格好はミスマッチだったか?


 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 宍戸さんの家は落ち着いた雰囲気の、まさに大人の女性が暮らす場所といった様子が入っただけで感じられた。遅れて間接照明が自動的に点いた。私はすぐに背筋と膝を伸ばした。


 「お邪魔します」「お邪魔します」

 後ろにいる宍戸さんが鍵を閉めた音が聞こえた。


 「どうぞー。つまらない場所ですが」

 宍戸さんが私達の横をすり抜けて、先に進んでいった。。スリッパを履いてその後ろをついていくと、リビングに置かれた例のミニチュアが見えた。それを見た宍戸さんの顔は一見普通そうに微笑んでいる。しかし、自宅にいるかもしれない怪奇を探すのに集中している私には分かる。緊張して怖がっている。

 「今、何か出しますね」

 何も言わない私達に気を遣ってか、宍戸さんは台所の方に行ってしまった。


 「これ、よくできていますね」

 藍風さんが興味深そうにミニチュアを見つめている。部屋の確認は後にして、私も一緒に調べることにした。


 模型自体は怪奇ではない。リフォーム番組でよく見るような見た目だが、実際、雑に作られている感はあるも材質は一様にプラスチックでできているようだ。アンテナもあるし、外壁のモールドもある。窓ガラスもはまっている。屋根は…容易に取り外すことができた。


 「動きますね」

 リビングのテーブルが衝撃でずれた。試しにピンセットで窓の鍵を突くと…これも動いた。蛇口もひねることができる。冷蔵庫の扉も開く。何となく倒れた椅子を元に戻そうとつかむと、異常に堅い。


 「上野さん、何かいませんか」

 藍風さんがテレビを持ち上げながらそう尋ねてきた。コードやケーブルが付いていない。


 「うーん…、特に何もいないようです。藍風さんは気配を感じたりしませんか」


 「うーん、今のところは何も感じません」

 藍風さんは少し首をかしげた。


 「お待たせ。どうですか?何かありますか?」

 宍戸さんが持って来たのは紅茶だった。多分、パックのだ。音と匂いで分かる。


 「今のところは、まだ…。他のミニチュアも見せてもらえますか」


 「ええ、それなら隣の部屋に積んであります。あ、これ、よかったらどうぞ」


 隣の部屋に宍戸さんが消えている間、私達はテーブルの上を眺めながら出してもらった紅茶を飲んだ。高級な味だ。

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