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第180話 ムームーカンカン(前編)

第180話 ムームーカンカン(前編)


 他人に誤解されることがままあるが、私は別に肉体労働が嫌いなわけではない。単に、それをする意味が明確でなかったり、効率が悪かったりするのが引っかかっているだけだ。もっと言うと、その人に付いていく価値がないと思っているだけだ。実力もないのに背中で語るとごまかして指示を出さないのは、このご時世、ただの怠慢の、無能だ。ついでに言うと、肉体労働とそれ以外で、時給に差があるからそれ以外を選んでいるだけなのだ。あるいはどちらをしても時給が変わらないからだ。それなのに肉体労働が云々とさも私が怠けていて、差別的な人間であるように装飾する奴がいた。なおタチが悪いのはそれを支持する(というか私を生贄にする)取り巻きがいたことだ。奴らの身内の何人が死んだのだろうか。最近は面倒くさくて調べていない。


 それを思い出したのは嶽さんから雑用をしないかと誘われたからだ。実質無給(交通費と食費が出るくらい)、重装備で山登りをする、夜勤というものだが、当然行くと返事をした。なぜならば、嶽さんは(若干ぶっきらぼうだが)物事の説明をしてくれるし、珍しい怪奇の情報が得られるからだ。そこに価値があるのだから、行く以外の選択肢はなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 いつもよりも早く起きて、朝食を食べた後、前日にまとめた荷物を持って車に乗った。怪奇絡みで車を使っているのに、助手席に藍風さんがいないことが少し奇妙に感じた。毛布や参考書やらが置いてあったからだろう。


 高速道路に乗って向かった先はP県の見筒岳だった。途中のサービスエリアで休憩した時に山の方を見たが、雲一つかかっていなかった。実は結構ほっとした。今回の仕事は大雨だろうが台風だろうがやる予定だったからだ。早めの昼食(天ぷらそばの大盛り)をそこで取った。再び車を走らせた後でもっと腹持ちの良いものを選べばよかったと後悔した。匂いにつられてしまった。ただ、美味しかった。



 下道から市街を離れて傾斜のついた道を進んでいくと、見慣れた車の停まっている駐車場を見つけた。嶽さんと桾崎さんが外に出て待っていた。


 「おう、来たな」

 車から降りると嶽さんが近づいてきた。後ろで桾崎さんが荷台の荷物を外に出している。


 「よろしくお願いします。これ、頼まれていたものです」


 「ああ、それ、向こうのザックに入れてくれ。そろそろ行こう」


 言われた通り桾崎さんの所に行くと、彼女はザックの口を開けて待っていた。


 「こんにちは、よろしくお願いします」

 少し屈んで話しかけると、ミントのような香りがすっと入ってきた。


 「こちらこそ、お願いします!」

 何だか気合が入っている。いつも思うが、彼女は学校をどうしているのだろうか。



 それから嶽さんが装備を確認して、私達は山道に入っていった。自前の登山服に登山靴、後は借り物の大型のザック、ヘルメットなどなどを身に着けていて、重く動きにくかった。始めのうちは登山道があってまだ歩き易かったが、すぐに獣道に入って足元も狭く不安定になった。さらに、先頭が嶽さん、その後ろに桾崎さん、その後ろに私だったから、置いていかれないように必死だった。嶽さんは勿論、桾崎さんもどこにその体力があるのか、私と同じくらいの荷物を持って歩いていた。


 獣道は昔、人間も使っていたのだろう、一度廃村が脇に見えた。朽ちた具合からして明治辺りのものだろうと思った。途中から藪の中を突っ切りつつ進んでいった。何度か休憩をしていたとはいえそうとう疲れた。目的地に着いたのは暗くなった後だった。私は昼でも夜でも見え方は変わらないが、山の中で闇に包まれているとそこら中から狙われているかのような緊張があった。嶽さんと桾崎さんはヘッドライトを点けていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 目的地は広く平らな場所だった。そこに荷物を降ろして、嶽さん(と桾崎さん)が結界(四方に棒を立ててそこに縄を張っていた。呪文も唱えていた)を張っている間、私はテントを立てて、夕食の準備をした。夕食はレトルトカレーだった。運動した後だと余計に美味しかった。なお予想していたことだが、スマホの電波は入らなかった。


 腹を満たした後、3人で交代して、下に見える村があったと思われる場所(登ってきたときに見たのとは違う)を監視した。テントから離れたところにある嶽さんが張った別の結界の中で行った。



 仮眠から目を覚ますと寝袋に入った桾崎さんの顔が近くにあった。少女らしい顔立ちですやすやと眠っていた。まつげが長く、サラサラの髪が額にかかっていた。彼女を起こさないようにテントから出て、嶽さんのいる方の結界に向かった。視界に嶽さんが入って、向こうもこちらを見ていたから(音で気づいたのだろう)、声を掛けようと思った時だった。廃村からかすかに複数の声が聞こえてきた。


 「ムームーカンカンムームーカンカン」「ムームーカンカン」

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