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第179話 松の木のある家(後編)

第179話 松の木のある家(後編)


 朝食を終えて、これから何をしようかと考えながら歯を磨いていたときにスマホが振動した。みーさんからだった。山根氏からアレに対応してほしいと連絡があったから後で部屋に行く、とのことだった。多分寝起きだったのだろう、誤字(変換候補のミス)が目立った。部屋に来るのは大分後のことになるだろうと思って(実際そうだったが)、タブレットを使って勉強を始めた。


 みーさんが部屋に来たのはちょうど一区切りついたときだった。ノックの音に続いて前回と同じく「おねーさんですよー」の台詞が聞こえた。気恥ずかしさを覚えて、急いで扉を開けた。


 「遅くなってごめんねー」

 いつものジャージ姿だ。オレンジのような香りがするのは、風呂上がりだからだろうか。湿気を感じる。


 「いえ、ちょうど良かったですよ。入ってください」


 「お邪魔しまーす」

 みーさんは部屋に入って、それから椅子に座ると早速依頼の話を始めた。

 「例のアレ、あの家にご執心なんですよー。だから、夜に行けば会えますねー」


 「札でどうにかできそうなのでしょうか」

 相手によっては札が効かないこともある。それなら武闘派に対応を頼むことになる。ただ、みーさんの話しぶりから、自分たちでやる気であると簡単に分かった。


 「多分ねー」

 確実ではないのか、と思ったが、怪奇相手に常識は通じないのだから、多分と予想できるだけでも上々なのだろう。つまり、多分、は信用してよい割合だ。みーさんを信用しているからでもあるが。


 「なら、夜、あの怪奇が出る前に仕掛けますね」


 「じゃあ、行きますかー」

 それを合図にして私達は部屋の外に出た。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 例の家に行く前にコンビニで携帯食糧や飲み物を買って、タクシーで山根氏の家へ向かった。知らない間にそこをベースとして使えることになっていた。みーさんがどこかのタイミングで交渉したのだろう。ただ、みーさんも言っていたが、レンタカーを借りた方が何かと都合が良かった気がする。こういう移動と待機を細かく繰り返す場合には重宝する。今回は予定外の行動が続いたからこのようになった。



 山根氏の家に着いた後、借りた部屋で昼食を食べて(山根氏が差し入れということで色々と出してくれた)、例の松の木のある家に行った。アレの姿もなく、家の鍵も一度開けたことがあるから簡単に開けることができ、スムーズに事が進んでいった。


 例の怪奇がいた部屋に入ると、壁の一部に黒ずんだ染みができているのを見つけた。みーさんがその近くの、変質していない壁を触って、「怒っているみたいですねー」とやや緊張した声色で言った。私は急いで床と壁に罠を仕掛けた。


 罠は、動物を狩るときと似たようなものだ。怪奇の出現場所を予測して(これはみーさんのサイコメトリーのおかげで非常に正確にできた)、その周囲に札を仕掛ける。今回は糸を張って札を数枚ぶら下げた。札は人(能力者?)の手を離れると効果が弱くなるのだが、みーさんはアレにはこれで十分と言っていた。罠を専門にする人達はもっと色々とできることがあるのだろう。


 それから慎重にその家を出て、山根氏の家へ向かった。徘徊ルートを歩いていたが、とみ子さんの魂の一部を見つけることはできなかった。外は暖かく、舗装されていない道の端には花をつけた雑草が生えていた。借りた部屋の中で、交代して仮眠を取りながら夜まで待った。夕食は携帯食糧で済ませた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夜中、山根氏の家を出て例の家に向かった。例の松の木が見えるぎりぎりの場所で窓を眺め始めると少ししてソレが現れた(みーさんが見た通り、同じ時間だった)。すぐにソレは目玉を上下に動かして髪をゆらゆらとさせた。怒りを示す行動なのだろうと思った。しかしその怒りをぶつけることはできなかった。どう体を動かしたからなのか分からないが、体の一部が札に触れた。途端にソレが停止した。完全に動かなくなったことをみーさんと一緒に見届けてから、タクシーで旅館に戻り、風呂に入って寝た。



 翌日、残りの携帯食糧で腹を満たしてから、荷物をまとめて松の木のある家へ行った。例の怪奇は消えていた。朝になったからなのか、日光に当たったからなのか分からないが、とにかく消えた。札が1枚、何か薬品がかかったかのように焦げていた。その場を片付けて、家主に何となく悪い気がしたから部屋を掃除して(その間みーさんは外で山根氏と協会に連絡をしていた)、それからタクシーで駅まで直行した。


 新幹線に乗ってG県に戻る間、みーさんも私もスマホを触っていた。昼食は牛肉の入った駅弁を食べた。もう少し遅い時間だったら車内で缶ビールを開けていただろう。


 G駅でみーさんと別れて文松町に戻った後、特売日のスーパーマーケットに寄り道してから家に帰った。夕食は出来合いのオムライスにした。その後に飲んだビールは普段よりも美味しかった気がした。

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