第172話 ツチブタ(後編)
第172話 ツチブタ(後編)
ホテルに泊まっていたのに、さらに特に用事もなかったのに、いつも通りの時間に目が覚めた。朝食の時間になるまでテレビから流れてくる朝のニュースを聞きながら、スマホを操作していた。始めは動物園のホームページを見ていたはずなのに、いつの間にか動物の名前で色々と検索して、最後はサーバルキャットの飼育法や値段を調べていた。犬猫以外の、そういう動物をいつか飼育して見たいと思っていたが、よく考えると多分世界で唯一のペット(?)を飼っている。手続きと協会への定期レポート以外、ほとんど手間がかからない。餌代もかからないし、毛もにおいもしない、鳴き声もない、そう考えると相当優良だ。
朝食は藍風さんと一緒に食べた。味は可もなく不可もなくだった。その最中に、前の日の夜に居酒屋に行ったのを藍風さんに見抜かれた。服に匂いが付いていたのだろう。別に何も悪いことをしているわけではないけれども。もしかしたら誘ってほしかったのだろうか。まさに居酒屋という所に連れて行くのは難しいと思う。下手したら小学生に見える。
それから、ホテルを引き払って矢子動物園に行った。前日に続いて天気は良かった。私達は早速貰ったフリーパスを使って中に入り、パンフレットを見ながら適当に園内をぶらついた。午前中だったからなのだろうか、人も少なく、動物もまだ動いていて、どこも面白かった。特に巨大な猛禽類が良かった。足で器用に肉を食べているさま、不意に翼を大きく広げるさまは堂々としていて、かっこよかった。
だんだんと園内が混みだしていたから、昼食は早めにとった。安っぽい器に入れられたたこ焼きとハンバーガーを外で食べた。どこにでもある白く丸いテーブルの前に腰掛けて、陽気の中で食べると不思議と美味しく感じた。
腹が膨れてからも園内を回って時間を過ごした。藍風さんがふれあい動物園の小ヤギにおずおずと近づいて撫でるのを見ていたり、ニホンザルが毛づくろいをし合っているのを見たり、ライオンが寝そべってびくとも動かないのを見たり(その頭の上に丈の低いイチイの木のような怪奇が生えていた)、カンガルーが跳ねまわっているのを見たりと存分に堪能した。
閉園時間の前に車に戻った。帰り道は藍風さんと動物の話で盛り上がった。運転に集中していたから藍風さんの顔をずっと見ることはなかったが、声色から楽しかったことがよく分かった。
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途中のパーキングエリアに寄って夕食をとった。野菜をたくさん食べたかったから鶏肉と野菜のあんかけ定食を選んだ。藍風さんも同じものを選んだ。値段の割に量が少なめに思った。その時ついでに封印した袋を確認したが、特に問題はなかった。たまに抜け出したり、変な反応をしていたりと一見普通の怪奇に見えても(普通の怪奇、というのがまず変だが)、変なことはある。
再び高速道路を走り始めたときには外は暗くなっていた。室内灯を点けることもできなかったため、藍風さんは背もたれに寄りかかって窓の外を見ていた。
文松町には夜に着いた。それから通り慣れた道を走って藍風さんを自宅まで送り届けて、コンビニに寄ろうと思ったが、家につまみがあるのを思い出してまっすく家に帰った。
風呂上がりに缶ビールを飲んで焼鳥の缶詰をつまみながら、動物園で撮った写真をPCに移した。それから、藍風さんに頼まれていた写真を送った。男性と少女のつれから撮ってもらったものだ。藍風さんがそういうのを撮りたがるのは珍しいと思った。
結局腹は減っていた。酒のつまみでは満足しなかったため、本当は夜食べ過ぎるのは良くないが、カップラーメンを1個食べて、ビールをもう1本飲んだ。二日酔いにならないように水と野菜ジュースを飲んで(何が利いているのか、本当に利くのか分からないが)、満足してから布団に入った。
硬貨虫は静かにしていた。そういうときもある。
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