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第17話 新校舎の七不思議(前編)

第17話 新校舎の七不思議(前編)


 そのときに城山さんから聞いた旧校舎の七不思議は新校舎の七不思議と全く違っていた。内容についてはまた触れるとして、話の毛色が違うのは時代の違いのせいだろうかと思う。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「この部屋に旧校舎時代の校内新聞もありますか」


 「はい。この間書類整理の時にあったので、向こうの棚にあると思います」

 城山さんが指した先は雑然としたものが積まれていた。何に使うかわからない竹の棒、やたら大きい団扇、段ボールの山…。あの中から探し出すのもまた一苦労しそうだった。


 新校舎の七不思議の元となったであろうそれらしい話を校内新聞から探し出し、一段落した私達は七不思議を見つけ出して何とかするチームと旧校内新聞を調べるチームに分かれることにした。4人で行動するよりも小回りが利くからだ。


 「とりあえず私は七不思議の方をするとして、もう一人は誰が来ますか」

 藍風さんが来るのだろうと思っていたし、その前提で2-2に分かれることを考えていた。


 「あ、それなら私が上野さんと行きます。字を読みすぎて疲れちゃったんだ」

 予想外だったのは江崎さんが行きたがったことだった。一人くらいなら身を挺してでもかばえるだろうからそれでも良いかもしれない。藍風さんがの方をちらりと見ると、私にしか見えないようにメモをこちらに向けていた。


 『こっちで何かあっても私がいるのでかえっていいかもしれません』

 急いで書いたからか詳しい情報はなかったが、それが良いと藍風さんが行っているならそれが良いだろう。きれいな字だ。


 「詩織ちゃん大丈夫なの?」


 「うん、怖いけど誰かが行かないとね。それに頭がパンクしそうだし」


 「気を付けてね、がんばってね」「気を付けてね」


 心配する(当然だ)城山さんと藍風さんを生徒会室に残して私と江崎さんは廊下に出た。生徒会室から漏れる明かりが近くの廊下を照らしてはいたが、遠くの廊下は真っ暗で、激しい雨のせいで月明りにも期待できず、懐中電灯がなければ足元もはっきりしないだろう。私は集中すれば闇夜だろうがどうにでもなるので江崎さんに懐中電灯を渡して校内を回ることにした。校内の電灯が必ず付く保証もない。


 「懐中電灯持っていていいですよ。私は夜目が利くんです」


 「あ。ありがとうございます。こんなに暗いのにすごいですね」

 江崎さんはカチカチと懐中電灯を点けたり消したりしていた。そういうことすると壊れると思うけど。


 「江崎さん、先ほどの七不思議で一番近くにあるのはどこですか」

 とりあえずの方向を決めるのに聞いてみた。


 「あ、それなら図書室がここから渡り廊下を渡ってすぐ先にあります」

 図書室に向かうことにした私達は西側の廊下を注意しながら歩いた。幸か不幸か七不思議のせいで怪奇がほとんどない。それでも油断はできない。江崎さんはまだ現実感がないのか大分落ち着いていた。江崎さんが生徒会室で言っていた『図書室には読むと呪われる本がある』はこんな内容だった。


 『図書室には旧校舎の時の古い本もたくさんあるけど、中にはどうして学校に寄贈されたのか分からない本もあるのね。そんな中に読むと呪われる本があると言われてるんだ。なんでも真っ黒な本で表紙には何も書かれていないんだけど、中は外国語で書かれた冒険ものの小説なんだって。それで、その本を読んでしまうと話の中の魔女に呪いをかけられて死んじゃうんだって』


 呪い、というのがどういう風に作用しているのかは今更考えても仕方ないが、どういう形で出るのだろうか。そういう意味では最も未知で対策の立てようがない怪奇だと思った。まあ校内新聞を調べたおかげで藍風さんのやり方をすることができるので大丈夫だろう。正攻法なら本を燃やしたり、小説の中で魔女が退治されているならその通りに対処すれば良さそうだが。そんなことを考えながら図書室前についた。


 「行きますよ」

 私は合図をして、扉に手をかけ勢いよく開いた。中はごく普通の図書室だった。


 「いつも通りみたい」

 そっと横から覗いた江崎さんが安心したようにつぶやいた。


 「それではその黒い本を一緒に探しますか。本には触らないでくださいね」


 試しに電灯のスイッチを押すと生徒会室と同じように明るくなった。これで探しやすくなるだろう。本は図書館のように分類されて並んでいたが、その本がどこに並んでいるかもわからない。私が見て二重にぶれている本がそれだ。しかし、この校舎自体が怪奇であるからチューニングが難しい。遠くから見て一発でわかるというわけには行かなかった。


 まず手始めに小説コーナーを探したが、それらしいものはなかった。探していて分かったのだが、そもそも背表紙にタイトルが書かれていない本は基本的にないので普通に見ていても探せそうだ。そんなわけで江崎さんと二手に分かれてそれらしい本を探すことにした。決して触らないように念には念を入れておいた。


 しばらく経って、片っ端から本棚を探したがその本を見つけることができなかった。時計が動いていないからどのくらいの時間探していたのかもわからない。30分くらいだろうか。七不思議の割には自分?から出てこないのがまるでトラばさみのように潜んでいるようで不気味だ。


 「上野さん、何かありましたか?」


 「残念ながら、見つかっていないです。図書室の本はここにしかないですよね」


 「そうだと思います。この学校は特別室が2つあったりするんですけど、図書室は1つだけですし、うーん」

 江崎さんは少し考えてふと何かひらめいたらしく、「あっ」と声に出した。


 「受付のところにもあるかもしれません」


 確かに言われてみれば受付には返却直後の本や手直し中の本などが置いてあるものだった。現役をだいぶ前に退いているとこういうことには気づかないものだと思った。江崎さんの言うように受付まで行くと『修理中』と書かれた棚の隅にそれがあった。


 「江崎さん、あれがその本みたいですよ」


 「あ、あれがですか。本当にあったんですね…」

 無意識のうちに江崎さんの手が本に伸びている。慌てて私は腕をつかんで江崎さんを遠ざけた。手に取りたくなるような妖しい魅力があるようだ。私は急いで藍風さんに言われたようにその本の上に指定された発行年数の10円玉を3枚重ねておいた。偶々小銭を多めに持っていてよかった。


 しばらく本を眺めていると徐々にこちら側のその影は薄れていき、やがてチャリン、と10円玉が棚に落ちた。勿体ないので回収した。


 「江崎さん、終わりましたよ」


 「本当ですか!あっ、本当に本がなくなっている」

 先ほど本に引っ張られてから少し怖がっていたようだったが、元気を取り戻してくれた。その証拠に「実は隠したんじゃないですか?」なんて言っていた。


 

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