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第170話 ツチブタ(前編)

第170話 ツチブタ(前編)


 動物は様々な能力を持っていて、様々な環境に適応している。生態を観察するのも、仕組みを学ぶのも面白いと思う。久々にインターネットで調べたら興味が尽きずにしばらく時間を過ごしてしまった。普通の動物でこれなのだから、怪奇はもっと様々だろう。さらに怪奇は大抵物理法則を無視しているから、憶測さえできないものが無数にあるのだと思う。検索した理由は今回の依頼に関係があるからだ。


 数日前に藍風さんから依頼を受けられるか予定を聞かれた。2件とも受けられそうと返信するとすぐに返事が返ってきた。そのうちの1件は落選したが、残りの1件は受けることができたと珍しく電話がかかってきた。心なしか嬉しそうに聞こえた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 朝、普段よりも早く起きてから風呂に入った。風呂から上がると硬貨虫が水槽をバンバンと叩いていた。餌のクリップをあげて尻尾の硬貨(クラゲのような生き物が一面にΣのような模様がもう一面に彫られていた銀色のもの)を回収した。それから朝食を食べて、コーヒーを飲んだ。眠気もしっかり覚めたところで荷物を持って車に乗って、藍風さんの家へ向かった。


 門の前に着くと、既に藍風さんが立って待っていた。登山服のような恰好をして、リュックサックを背負っていた。


 「おはようございます」

 助手席の扉が開いて、藍風さんが乗ってきた。


 「おはようございます」

 車内にシダーと桃のような香りが広がった。藍風さんが身を捩らせて後部座席に荷物を置いた。薄く小柄だと改めて思った。シートベルトを着けたのを確認してから車を走らせて高速道路の入り口に向かった。


 「あの、服装の件、ありがとうございます」

 多分、女の子は気にするだろうと思ってアドバイスして良かった。私も同じような格好をしている。


 「はい、実際、すごいと思いますよ」


 「そうなのですか。私はまだ実際に見たこともありませんから」


 「私も昔見ただけですから、今こうなった後だとどうなるか心配ですね」


 それから、今まで何を見たかや何が好きかの話をしながら車を走らせた。高速道路に入った後はいつものように車内は静かになった。藍風さんはドアポケットに入れてあった(藍風さんの)参考書を読んでいた。いつの間にか入っていたが、後に、どちらかと言えば使い慣れたものを何度も読んだ方が身に着くから持ち帰った方が良いと思う、と伝えると、もう一冊持っているから大丈夫です、と返ってきた。努力家だと思う。車を走らせながら私は今回の依頼内容を思い出していた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 P県P市にある矢子動物園で最近、ツチブタの檻に変なモノが現れたらしい。(ツチブタは豚と兎とカンガルーを足して割ったような見た目で珍しい動物である。豚の仲間ではない。)


 始めに気が付いたのは来園者の1人だった。何度か矢子動物園に来たことがある彼は、檻の中で黒いもやのようなものが立っているのを見つけたらしい。始めはただの飾りか何かと思ったが、一度も見たことがないことと、もう一度見に戻った時には見つけられなかったことから印象的で憶えていたそうだ。


 次に気が付いたのは飼育員だった。日課の掃除を終わらせてふと振り向いたときにツチブタの1頭に黒いもやがまとわりついていたそうだ。見間違えと思ってもう一度見るとそのもやは消えていたらしい。


 再び飼育員が気づいたときにはもやが黒人男性の頭、それも何本も細い舌が生えていて、ツチブタにまとわりついているものになっていたそうだ。目はなかったらしい。あまりの不気味さに飼育員が園に報告して、園長の知るところとなり、協会に依頼が回ってきた。今のところツチブタの体調が悪くなることはないが、もし来場者に姿を見られるまでになったら評判に差し支えるからだという。現在は一時的に展示を中止している。


 今回の依頼はシンプルで、その怪奇をどこかにやってほしいというものだ。幸い園も協力的だから事は運びやすいだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 下道に入ってからP市内の動物園近くで昼食を食べた。私も藍風さんも月見そばを食べた。いい具合に黄身がそばに絡んでこれがまた美味しかった。蕎麦屋を出て車に戻るとき、そばの香りに鼻が慣れたからだろう、動物園の何のかは分からないが臭いを感じた。意識しないでも臭うなら敏感な人には相当だろうと思った。

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