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第169話 気まずい

第169話 気まずい


 立ち入り禁止の場所には何かしらの理由がある。警告が大きく、分かりやすく表示されていればわざわざ自分から入ろうとは思わない。たちが悪いのは何も書かれていないときだ。どこまで入って良いのか分からなくて悩む。うっかり間違えて入った時に、向こうに人がいたときの気まずさは計り知れない。さらにたちが悪いのは、立ち入り禁止の理由が危険な場合だ。



 朝からひどく曇りがちだった。久々にプライベートで(支部に行くのでも、依頼でもなく)G市に行ってぶらつこうとしていたから少し気落ちした。天気予報では晴れだったが外れるときもある。どうしようか迷ったが、少し様子を見て雨が降らなければ行くことにした。目的があってG市に行くのではなく、G市に行ってどこかで何かができれば良いわけだからだった。仮に雨が降ってきてもどこかのビルかアーケードの下に入って何か食べたり見たりすればよいと思った。


 しばらくは日課の勉強をしながら過ごしたが、天気は良くも悪くもならなかった。だから少し遅めの電車に乗ってG駅へ向かった。駅の中にあるラーメン屋に入って、昼食につけ麺を食べた。ここはしばしば視界に入るが、今までわざわざ行く機会がなかった。味付けは少し濃かったが、麺にタレが絡んで味が混ざり、美味しかった。量は多めだったがたまには良い。



 満腹のままアーケード街をゆっくりと歩いた。私と同じように雨が降らないか心配していただろう人たちが多くいて、少し歩きにくさはあったが、その分普段見ないような店に目を向けることができた。見たところで買うわけではなかったし、興味があるわけでもなかった。歩いて立ち止まり、時には店に入って中の商品を見てをやっていくと、大きな交差点に差し掛かった。


 (雨は降っていないな…)

 赤信号に引っかかった。アーケードのかかっていない所から見える空模様は変わらない。交差点の前には人だかりができている。


 (次はどこに行こうか)

 信号が青に変わった。周りの人に混ざって横断歩道を渡っていく。しかし―


 (不自然だ)

 先頭が左右に分かれていった。それだけではない。全員がどちらかに曲がっている。もし、そちらにある何かに用事があるなら、横断歩道を渡る前に曲がって進まないだろうか。全員が、というのが変だ。何かあったのだろうか。


 私も横断歩道を渡り終えた。そのまま先に進もうと思ったが、他の人が通らないことに理由があるのではないかと頭をよぎった。確かにアーケードの先には人の姿が見えない。立て看板はないし、工事をしている様子もない。特に異様な怪奇もいない。


 (進んで良いのだろうか)

 迷う。何度も通ったところだから大丈夫だと思う。いつまでもここに立っていたら不自然だ。後ろを通る人が左右に進んで行く。


 ごく短い間考えたがそのまま進むことに決めた。何か悪いことをしているわけでもないし、誰かに言われたら出ればよい、と思った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 人がいない以外は変わりないアーケード街を進んで行った。店員も見える範囲にはいない。入り口が開いている店の店員は死角にいるのだろう。閉まっている店は言うまでもない。


 「あれ?どうして?」

 後ろから店の扉が開く音、それから天ぷら油の匂い、続いて人の音と匂いがしている、と思った矢先に聞こえた。

 「ねえ、何をしているんですか?」

 もしかして私に話しかけているのだろうか。間違っていたら恥ずかしい。それとなく、何か別の用があるふりをして振り返ると、中年女性が明らかにこちらを見ていた。知らない人だ。


 「はい?」


 「何しているんですか?」

 声に困惑と怒気がこもっている。普通の格好だから、工事関係者ではないだろう。天ぷら油の匂いがしたから、そこの店の客ではないだろうか。見ず知らずの人にそんな言われ方をされる筋合いはないと思うが。


 「大丈夫です」

 もしかしたら立ち入り禁止だったのかもしれない。あるいは、変な人なのかもしれない。後者の可能性が高い。一刻も早く離れようと近くの道を左折する。


 「何しているのか聞いているんですよ!」

 聞こえないふりをして足早に進む。声の主が追いかけてくる音は聞こえなかった。


 大回りをして元の交差点に戻ると、横断歩道を渡ってくる人たちが視界に入った。大半はまた左右に分かれて進んでいき、私とすれ違っていった。釈然としないままその交差点を通ると、足元の壁に何かが貼ってあることに気付いた。どこかで見たような気がした。少し考えて分かった。人払いの札だった。前に見たものと細部が違っているのか、記憶があやふやなのか分からないが、多分そうだ。先ほどの中年女性の(無礼に感じなくもなかった)発言からしてそうだと思う。護符を持っていたから、恐らく入ることができてしまったのだろう。


 電車に乗るまでは尾行されていないかと不安だった。後々考えると、あちらからは遠すぎてはっきりと私のことが見えなかっただろう。私は向こうの顔を見たのだから、協会を通して素性を探ればよい。その前にみーさんに中年女性の特徴を話したら、同じ支部に所属している人と分かった。


 夕食はG駅付近で食べようと思っていたから、家に作り置きはなかった。冷凍食品のラーメンを食べた。風呂からあがってスマホを見ると、みーさんから追伸で、(人払いの空間に誰かが迷い込むのは)たまにあることだから、中年女性は気にしていないとまた聞きしたと送られてきた。安心した。


 寝る前に思ったが、札や護符といった道具の詳細を知ることはできないだろうか。能力がなくても使うことができる。

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